2019年09月08日

〈声なきオペラ〉を体験させるアルディッティ弦楽四重奏団のベルク『抒情組曲』


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1960年代、ジュリアード弦楽四重奏団によるアルバン・ベルクの『抒情組曲』がレコードになった時、これを超える演奏は今後もまず出ないだろうと評論家と称する人々は言った。

しかし、70年代に入って、ラサール弦楽四重奏団によるレコードを聴いた時も、アルバン・ベルク弦楽四重奏団によるレコードを聴いた時も、人は知らぬ間に同じように呟いた。

そして80年代末、アルディッティ弦楽四重奏団の『抒情組曲』のレコードを聴いて、人は、今度こそもう後のない演奏だと宣言したくなる誘惑に駆られた。

確かにコンテンンポラリー音楽の演奏を専門とし、鮮烈な技術と鋭敏なセンスを特質とするアルディッティ弦楽四重奏団が、20世紀音楽の原点の1つというべき新ウィーン楽派の音楽において優れた成果を出さないわけがない。

アルディッティ弦楽四重奏団による『抒情組曲』の演奏(作品3の弦楽四重奏曲も収められている)の充実ぶりからは、この曲が大規模な弦楽オーケストラのために(その3つの楽章が)編曲され、演奏されることなどそうして必要なのかと思えるほどの強度とニュアンスが伝わってくる。

彼らの、音の動きを精確に客観的に醒めた目で見据えようとするクールな姿勢が、楽章によっては(例えば本来なら最も白熱する第5楽章プレスト・デリランド)やや冷たさを感じさせないこともないが、逆に第3楽章アレグロ・ミステリオーソなどでは圧倒的な効果を発揮する。

それは、例えば、ラサール弦楽四重奏団によるこの曲の第3楽章アレグロ・ミステリオーソの演奏が、ペンデレツキの第1番の弦楽四重奏曲に30年も先立ってこの曲が存在していたことを印象づけるものであったり、ジュリアード弦楽四重奏団の演奏が、この曲の初演(1927年)から10年後に完成されるシェーンベルクの第4番の弦楽四重奏曲のリズムの構成や楽器法を改めて想起させるものであったりするような、その新しさ、その未来を明示してみせるのとは違い、その曲の過去を照射する。

それは、単に、『抒情組曲』という名をもたらしたとされるツェムリンスキーの『抒情交響曲』の一節やワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の一節が過去の作品の引用として明瞭に聴き取れるように注意深く演奏されているからではない。

ベルクがいわゆる12音技法を用いて(とはいえ全体としては調性的な技法も用いている)書いた2番目の曲であるこの『抒情組曲』には、もう1つの過去があることが知られるようになった。

そのことはベルクの弟子でもあったアドルノやベルクの伝記作家カーナーが既に予感していたことでもあったが、この曲はベルクとその愛人ハンナ・フックス=ロベッティンの悲劇的な関係を作曲家自身が様々な方法で刻み込んだ作品であることが具体的に確かめられるようになったのだ。

例えばベルク音象徴A(イ音)とB(変ロ音)、ハンナの音象徴H(ロ音)とF(へ音)がこの曲の様々な分節構造を決定していて、ほとんど強迫的につきまとっていることが指摘されている。

アルディッティの演奏は、この事実を踏まえ、この4つの音が作り出す(和声的旋法的な)関係をきわめて緻密なアンサンブルを通して特権化し、いわば登場人物をめぐるライトモティーフの断片のごとく演出してみせる。

聴き手は、アルディッティとともに、30分余りのこの曲のなかで、めくるめく展開する6場からなる声なきオペラを体験することになる。

その後90年代初めに再録音したアルバン・ベルク弦楽四重奏団の熱い演奏などとは対照的だが、これもまたベルクの一面を衝いた見事なアプローチの1つと言えるだろう。

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classicalmusic at 12:06コメント(0)ベルク  

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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