2020年03月11日

ミルシテインが円熟期に録音した総てのグラモフォン音源


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ナタン・ミルシテイン(1903-1992)が円熟期に録音した総てのグラモフォン音源を纏めたセットになり、2度目のバッハの無伴奏を始めとする新録音の協奏曲集と、彼にとっては比較的レアなピアノ伴奏による小品集が収録されている。

バッハはそれまで多くのヴァイオリニストが踏襲していたひと時代前のロマンティックな奏法を捨てた、より原典主義に近付いたミルシテイン独自の解釈が聴きどころだ。

何よりも手アカのついた精神性とは無縁の、それでいてネオロマン風の外面的な美しさとも質の違う、活々とした生命感あふれる音楽の流れが心地よい。

内包した精神のエネルギーの大きさを感じさせる正確でアグレッシヴなリズム、オルガンを思わせるポリフォニックな響きの美しさ、完璧なアーティキュレーション、磨きぬかれたフレージング、そしてそれらのすべてを統一する強靭な形式感。

70歳になろうというヴィルトゥオーゾの到達した音楽世界の豊かさには驚くばかりだ。

チャイコフスキー、メンデルスゾーン、ブラームスの協奏曲では彼らしい飾り気のない、しかし凛とした覇気と気品を感じさせる。

特にチャイコフスキーが名演で、すっきりとした淡白な表現だが、強弱のニュアンスがまことに豊富であり、歌と情感に満ち、節回しの微妙な色合いや個性もよく出ている。

チャイコフスキーのセンチメンタリズムからは程遠いが、およそヴァイオリニスティックな美しさという点では他に比べるものがない。

アバド指揮ウィーン・フィルのリズミカルでキリリと引き締まった伴奏と相俟って、これは最も爽やかでスタイリッシュなチャイコフスキーだ。

メンデルスゾーンも独特の気品ある美しさを発散しており、洗練された技巧と音色が光っている。

ミルシテインの特徴であるこの上ない自発性、曲の形式感に対する知的なアプローチ、清潔で暖かみのある音色、正確無比なアーティキュレーション、ずば抜けたリズム感が生み出す躍動感、そういったものが一体になり、アバド指揮ウィーン・フィルの名伴奏も相俟って、メンデルスゾーンの世界を見事に描き出している。

ミルシテインは切れ味鋭いテクニックの持ち主だが、それを誇示することなくひたすら音楽表現に生かすタイプのヴァイオリニストだった。

ブラームスにもそうした芸風が端的に現れており、毅然として聴衆に媚びず、力強い響きによって弾き進めるブラームスはこの曲の表現のひとつの理想と言えるだろう。

そして何より、ここで共演しているヨッフム指揮のウィーン・フィルが見事と言うほかなく、ブラームスの協奏曲でオーケストラが単なる伴奏役にとどまらないのは言うまでもないが、ここではソロと同等、時によってはそれ以上に発言するオーケストラの芳しいばかりの表現にも心惹かれる。

またアンコール用の小品集がCD1枚を占めているが、ここにも彼の非凡さが良く表れていて、甘美でコケティッシュなクライスラーなどには目もくれず、一捻りした選曲が興味深い。

超絶技巧ものでは『ホラ・スタッカート』ではなく自作の『パガニニアーナ』で彼のヴィルトゥオジティが披露されている。

ところで、ミルシテインの録音は、これだけの名声を勝ち得た大家としては、その数はむしろ少ないと言ってよいだろう。

だが幸いなことに残された録音は皆レベルの高い粒よりの演奏だし、大曲の録音にまじって結構たくさんの小品集も録音され、彼のヴィルトゥオーゾとしての全貌を知る上で貴重なドキュメントとなっている。

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classicalmusic at 10:32コメント(0)ミルシテイン  

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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