2019年10月11日
衝撃的演奏、感動の新基準、アルゲリッチ&アバドのプロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番
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単なる名演、名人芸という次元ではなく、演奏の概念を変えてしまう画期的な表現活動に出くわすときがある。
聴き慣れた作品であれ、未知の作品であれ、目の前で繰り広げられる演奏が予想もしないインパクトと吸引力をもって展開され、聴いている自分が感動しているのか、それとも唖然としているのか分からなくなってしまうが、しかし前例のない感動体験であると断言できる、そんな演奏との出会いである。
マルタ・アルゲリッチ(1941年生まれ)の登場ほどショッキングだったことはなかったというが、それは感動刷新であり、演奏新時代の幕開けであった。
アルゼンチンに生まれたアルゲリッチは、1957年に行なわれたブゾーニ国際コンクール、スイスのジュネーヴ国際コンクールを16歳の若さで制覇、1960年にはドイツ・グラモフォンへのデビューも飾って、その天才ぶりを披露した。
そのデビュー盤の冒頭に収められたショパンの《スケルツォ第3番》からアルゲリッチはその天才ぶりと男まさりの表現意欲を見せつけたが、協奏曲の録音は1967年にようやく訪れた。
この間の1965年、24歳になっていたアルゲリッチはショパン国際コンクールに優勝し、その名声を確立したわけだが、高まる期待感を背景に録音されたのが、このプロコフィエフの《第3番》だったのである。
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルという豪華この上ない組み合わせによる演奏だが(実はアバドがベルリン・フィルと録音した最初の機会でもあった)、アルゲリッチはインスピレーションの塊というべきか、プロコフィエフの手になる迷宮の城を易々と、そして軽々と、さらに自ら楽しむかのように泳ぎ回った演奏で聴き手の度肝を抜いてしまう。
生まれたばかりと評したくなる音色の冴えと輝き、リズムの圧倒的推進力とその瑞々しさ、火照りにも似たカンタービレの熱さとしなやかさ、そして演奏全体をぐいぐいと引っ張り、指揮者やオーケストラすらも牛耳ってしまう女王のような存在感に、聴き手は完全に魔法にかけられてしまったものである。
しかもそれは決してショウなどではなく、実に味わい深い、演奏という名の無垢なる表現活動だったのであり、たとえようもない幸福感と高揚感に包まれた聴き手は演奏の時代が確実に一歩先へ進んだことを実感したのである。
録音から半世紀以上が過ぎたが、今なおこの演奏が与える感銘は色褪せない。
否、このプロコフィエフに心奪われた聴き手はその後、訪れた世代交替、演奏スタイルの激変、技術革新を前にしても何ら驚くことなく達観できる視野と座標軸を与えられたと言ってもよいであろう。
それほど感動の新基準となった演奏なのである。
聴き手を変えてしまう名演というものもあるのである。
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