2019年05月14日
困難さへの飽くなき挑戦、滋味溢れる朝比奈最後のベートーヴェン交響曲全集DVD
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「交響曲ごとに作風が変わり新しい境地を拓いていった」という評価は、朝比奈隆がベートーヴェンの偉大さを語る決まり文句のようになっていた。
このことは、ベートーヴェンの9つの交響曲を1人の指揮者と1つのオーケストラのコンビで完璧に演奏することがいかに難しいかを物語っている。
事実、朝比奈だけでなく多くの指揮者がこの交響曲全集を手掛けてきたが、決定盤は未だ現われていないと言っても過言ではない。
現在のところ、全集録音の最多記録を誇る朝比奈が手兵大阪フィルと組んでDVD化された『最後のベートーヴェン交響曲全集』を視聴し、ますますこの感を強くした。
朝比奈は、永年にわたり関西を中心に指揮活動を行なう傍ら、壮年時代から度々ヨーロッパに足を運んで現地のオーケストラを指揮する活動を続けており、ベートーヴェンの解釈では本場のヨーロッパでも高い評価を受けていて、このDVDからも、その成果は十分窺い知ることができる。
しっかりした曲の構成、重要なパッセージでのテンポの運び、強弱を含めた1つ1つの音符の処理など、どれをとっても立派でさすがであり、それが最も遺憾なく発揮されているのが、第5番である。
オーケストラの演奏はベストではないのだが、盤を通じて指揮者の気魄がジーンと胸に迫ってくる名演奏である。
遅めに設定したテンポは、大阪フィルの音に質量感を与えることに成功しているが、その反面、一部のマッチングの悪い場所では、遅めのテンポが仇になって、間延びした感じになってしまっている(3番『英雄』1・4楽章、4番4楽章など)。
オーケストラの音色に注目すると、大阪フィルの各パートの音色は、どれをとっても華麗である。
比較的種類が少ない初期の交響曲においては、この音色がベートーヴェンの音楽美を引き出すのにプラスの作用をしている。
しかし4番以降、多くの楽器が重なるパッセージにおいては、旋律を受け持つ楽器の音色が不鮮明で、ベートーヴェンの特徴である各楽器がそれぞれに語りかけてくるような箇所では、旋律の説得力が弱められている。
さて、このDVDはライヴであるが、ライヴ収録には、指揮者の意図を忠実に実現したいという狙いを出せる反面、録り直しは利かないというリスクがあり、ここでは演奏者のスタミナの問題も小さくない。
朝比奈の遅めのテンポ、完全なリピート実施、生演奏という状況下で、演奏者は力を使い果たしてしまうのか、最後の盛り上がりに十分な力が出せていない。
7番終楽章のコーダには音抜けがあり、9番最後のプレスティッシモ以降のコーラスには疲れが目立つ。
これがもし指揮者の意図にそぐわないものならば、この部分の音を録り直した方がずっと良い演奏になったことだろう。
日本人の体位は近年向上しているが、まだまだ欧米人の域には達しておらず、特に息を使う管楽器や声楽の人にとって、このハンディは大きい。
また9番のような場合、1人や2人のスーパーマンを連れて来て解決する問題ではないのである。
最近では、バックアップ・テープで、ライヴの趣旨を損なうことなく音の部分修正ができる技術も進んできているので、企画段階からの音の録り直しについての配慮が必要だったように思われる。
以上、問題点ばかり書いたが、この全集の中には滋味溢れる好演が多く、特に1番、2番、5番は、ベスト・ワン級の名演奏であり、また、6番『田園』と7番もなかなか良い演奏である。
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