2019年05月18日
どんなジャンルの曲を歌わせても一流の芸を披露、シエピのスタイリッシュなイタリアン・ソング集
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どのようなジャンルの曲を歌わせても、常に一流の芸を披露せずにはいなかったチェーザレ・シエピのプロフェッショナルな器用さを示した1枚で、先般復活したコール・ポーター・ミュージカル集に続いてリニューアルされた1961年の懐かしい音源だ。
しかし彼の声の深い響きと品の良い趣味には特有の味わいと説得力があり、またその表現力の幅広さに改めて驚かされる。
シエピがオペラで聴かせた登場人物の威厳や苦悩などはすっかり忘れさせてしまうくらい彼自身もリラックスして歌っているのが感じられる。
それは彼が巷の歌を見下したり侮っていたわけではなく、むしろオペラや芸術歌曲にも通じる共通の歌心を見出して、ひとつひとつの小品に愛情を込めて歌ったからではないだろうか。
それだけにこの音源は貴重で、際物的なレパートリーではあってもシエピを知る世代としてCDでの復活を喜びたい。
当時30代後半のシエピは既に20年の輝かしいキャリアを築いていたが、オペラの全曲演奏でも度々共演していたレナータ・テバルディも回想しているように、愛煙家であったためであろうか、この時点で高音域における僅かな翳りが聴き取れる。
しかし、その声の魅力と歌の巧さは他の誰からも聴く事の出来ないもので、冒頭の2曲から、イタリアの粋な香りに魅了されてしまう。
本当に持ち声の低い人(彼は低いCを豊かに響かせることが出来た)が高く甘い声でこのように歌えると、惚れ惚れとさせられる。
有名な「フニクリ・フニクラ」を、この人は何と色気たっぷりに鮮やかに料理してしまうのだろう。
囁きかけるように、そして情熱的に歌われる「I' te vurria vasa`(あなたのくちづけを)」。
しかしながら、「Nun me sceta`(起こさないで)」の鼻歌の如く消え入る結びはまさに、現代の舞台から消えてしまった漆黒のバスの響きである。
ロシア民謡であればバス歌手独壇場の世界が展開されるが、イタリアのカンツォーネは輝かしいテノールをイメージして作曲されたものが圧倒的に多く、こうしたレパートリーを低い声の歌手に歌わせるという企画自体かなり稀なことだ。
カンツォーネの指揮はディーノ・ディ・ステファノだが、オーケストラ及びコーラスの名称は記載されていない。
歴としたステレオ録音で、12曲目の『ティリトンバ』ではステレオ効果を使った遊びが入っているが、当時はこうしたテクニックが物珍しく、鑑賞者を楽しませたに違いない。
尚このCDの余白を埋めるボーナス・トラックは、前回のミュージカル・ソング集の後半に収めた同モノラル音源のアリア集から、入りきらなかった4曲をカップリングしたもので、この2枚のCDで更にLP1枚分のアリア集をカバーしたことになる。
それらとは別に1955年のエレーデ指揮、サンタ・チェチーリアとのセッションになるモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』からの「カタログの歌」が花を添えていて、持ち役ではなかったレポレロのアリアを、優雅な中にもユーモアを込めて見事に歌っている。
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