2019年05月21日

ヨーロッパを知るためのもうひとつの視点


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阿部謹也氏が他の著書でも繰り返して説明しているヨーロッパ賤民の成立とその経緯が、かなり詳しくまた広範囲の研究によって述べられている。

ヨーロッパという地域の文化にもう一歩深入りしたい方にお薦めしたい一冊だ。

八回に亘るレクチャーから起こされた文章なので、分かり易く丁寧に進められているのが特長で、彼の到達した結論とも言うべきヨーロッパに住む人々の根底にある宗教観や人間観が詳らかにされている。

著者はドイツから帰国した後『ハーメルンの笛吹き男』を発表したが、その時にはまだ賤民について充分な観察が為されていなかったと書いている。

留学中の古文書の閲覧の中で偶然見つけた1284年6月26日にハーメルンの町から130人の子供達が忽然といなくなったという記録自体ショッキングなものだったが、この記録には派手な衣装を纏った笛吹き男の姿は全く出てこない。

それは後の時代のメルヘン作家達によって作り上げられた象徴的な主人公だった。

ここでも繰り返し説明されているが、中世の人々の宇宙観は家や集落を中心として人間が制御できる小宇宙と大自然や森羅万象、病や死など人間が介入できない大宇宙のふたつだった。

その中間で生業を営む死刑執行人、墓掘り、定住しない放浪芸人などは特殊な能力を持った人として当初畏怖の念を持って見られていたが、キリスト教の徹底した布教によって、宇宙は全能の神が創造した唯一のものだという教えが広められ、これによって彼らの職業の権威が失墜してしまう。

その時彼らの仕事はただの汚れ仕事やうらぶれた旅芸人として畏怖が蔑みに変わり、差別の対象となったとしている。

だからこの時代には放浪芸人や辻音楽師などは賤視された差別民で、多くの子供達を連れ去った犯人を魔法を使う笛吹き男として表すのは都合の良いことだったに違いない。

ただし童話には教訓が必要なので、ハーメルンの町が鼠退治に雇った男に約束した謝礼を拒否したために、今度は子供達が笛の音につられて着いて行ってしまったという筋立てになっているのだが。

シャルル・マーニュ大帝はローマ法王から戴冠を受けた後、最も崇高な音楽は単旋律で斉唱されるグレゴリオ聖歌だとしてその他の庶民の間で演奏される、いわゆる世俗の音楽を退けた。

これも辻音楽師の差別に一役買っている。

村落の人々が祭りや宴会の時に呼ぶ放浪芸人の奏でる歌や踊りのため音楽は、魂を掻き立て興奮をもたらす悪魔の音楽だということになったからだ。

これはヒエロニムス・ボスの描いた幾つかの絵画にも表されていて、彼の大作『悦楽の園』の地獄ではハープやリュート、太鼓やクランクなどの周りで責め苛まれる群集が描かれている。

彼が後半でアルブレヒト・デューラーの項を設けて解説しているのも、阿部氏のこれまでの社会学的な視点で得られた成果と見做すことができるし、絵画の解釈にも新しい側面を拓いていると言えるだろう。

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classicalmusic at 00:00コメント(0)筆者のこと | 芸術に寄す 

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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