2021年12月27日

フルトヴェングラー生誕135年の掉尾を飾る「バイロイトの第9」スウェーデン放送所蔵音源


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歴史的名演というものの最たるものがこのフルトヴェングラーの「第9」であるだけに、これまでにも高音質化の試みが何度もなされてきた。

今回はまさに1951年7月29日、スウェーデン放送によって中継放送された番組、冒頭の4か国語 (ドイツ語、フランス語、英語、スウェーデン語の順) によるアナウンスから巨匠の入場、渾身の指揮、やや長めのインターバルをはさみ、最後の2分半以上に及ぶ大歓声と嵐のような拍手 (と番組終了のアナウンス) まで、85分間、一切のカットなしに当夜のすべての音をSACDハイブリッド盤に収録されている。

改めて述べるまでもないと思うが、第2次大戦後、ヒットラーとの関係などもあり閉鎖されていたバイロイト音楽祭が1951年に再開されたとき、その開幕記念を飾る演奏として計画されたのが、このフルトヴェングラーの「第9」コンサートであった。

ドイツ人なら誰しもが喜んだであろう再開であったが、それは虐殺されたユダヤ人の悲劇がまだ生々しかった時代のことであり、現代とは自ずと取り巻く環境は異なっていたはずである。

フルトヴェングラーも一時期は演奏活動を禁じられたほど第2次大戦の悲劇は音楽家たちにも影を落とした。

このバイロイト音楽祭もクナッパーツブッシュやカラヤンのようなバイロイト初登場の指揮者たちが顔を揃えているから、再開といえども祝典気分一色というのではなかったはずである。

むしろ新たな陣容でドイツの音楽史が歩み出すことを内外にアピールする切実な責務、使命感がその底にあったものと思われる。

フルトヴェングラーの双肩にそうした期待感と重圧がのしかかってきたわけだが、ここでフルトヴェングラーが聴かせた音楽はまさに壮絶そのものであった。

それは「第9」という作品の桁外れの素晴らしさを余すところなく明らかにすると同時に、演奏という再現行為が達成し得る、さらに深遠で、神秘的な奥深さへと聴き手を誘う記念碑的偉業となったのである。

演奏という行ないはいつしか信仰告白とでも言うべき高みへと浄化され、作品は作品としての姿を超えて彼方からの声と一体化する、そんな陶酔的感動の瞬間を作り出してしまっている。

以来、この歴史的ライヴ録音は演奏芸術の鑑として聳え立ち、もちろんその後、誰もこれを凌駕する演奏など作り出していない。

超えられる演奏などではなく、目標として仰ぎ見ることだけが許された名演と言ってもよいのかもしれない。

アメリカ生まれのスウェーデン人の名指揮者ヘルベルト・ブロムシュテット(1927年生まれ)は偶然にもこの演奏を聴くことができた音楽家だが、その日受けた感動をあまりしゃべりたがらない。

同じ指揮者として自分が日々やってることが、このフルトヴェングラーの演奏と対照されるとき、一体どれほどの意味と価値を持つものなのか悩み抜くからで、ことに「第9」の指揮は今なお怖いという。

聴衆の中に一人でもあの日の聴衆がいると思うと怖くてステージに上がれなくなる、いやこの歴史的名演をCDや放送で聴いて感動した人がいると思っただけでも、もう緊張してしまうのだそうである。

世界的巨匠と崇められるベテランの名指揮者を今なお呪縛してしまう、それほどの名演である。

歴史に残る演奏に出会える機会はそうあるものではないが、稀に見る奇跡を記録した演奏がこの「第9」である。

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classicalmusic at 19:19コメント(4)ベートーヴェン | フルトヴェングラー 

コメント一覧

1. Posted by 小島晶二   2021年12月28日 09:57
5 フルトヴェングラーのバイロイト第9についてはもう語り尽くされておりますが,今回の85分にも及ぶ完全盤は発売前から注目されていました。録音はどうでしたか。徳岡氏が指摘した様に,本盤の出現によってゲネプロとの関係を鑑みて1.5種類か2.5種類になるのかも知りたくなります。こうなると編集の全責任を負ったウォルター・レッグの決断が正しかったのか,間違っていたのかもう分からなくなりますね。故吉田秀和氏も本演奏を聴いたそうです。
2. Posted by 和田   2021年12月28日 10:12
フルトヴェングラーの「第9」のバイロイト・ライヴ盤(所謂レッグのプロデュース)は、人類の持つ至宝とも言うべき永遠の歴史的名盤とされている故に、初期盤以来、何度もリマスタリングを繰り返してきました。しかしながら、イタリアEMI盤も含め、いずれのCDも音質の改善効果はイマイチであったと言わざるを得ません。それ故に、私は、フルトヴェングラーによる「第9」は国内盤SACDで発売されたこともあり、これをベスト盤として、これまで愛聴してきました。しかしながら今般のBIS盤によってこの歴史的名演を、完全実況生中継で聴ける日が来ようとは、夢にも思いませんでした。音質は弦楽器の艶やかな、そして金管楽器のブリリアントな響きは、ORFEO盤よりも鮮明ですし、我々聴き手の肺腑を衝くようなティンパニの雷鳴のような轟きは、凄まじいまでの圧巻の迫力です。独唱や合唱も、これ以上は求め得ない見事さであり、オーケストラと見事に分離して聴こえるのには驚きました。ホルンの音色がやや古いのは残念ですが、これは、録音年代の古さを考慮すれば、致し方がないでしょう。特に、私が感心したのは、有名なエンディング。ORFEO盤だと、フルトヴェングラーの夢中になって突き進むハイテンポにオーケストラがついていけず、それ故に音が団子状態になって聴こえていましたが、BIS盤を聴くと、オーケストラはフルトヴェングラーの指揮に必死についていっており、アンサンブルもさほどは乱れていないことがよくわかりました。これは、フルトヴェングラーの「第9」の肝の箇所だけに、今般のBISハイブリッドSACD盤の最大の功績ではないでしょうか。
3. Posted by Josh   2022年02月25日 19:39
5  再生装置によって印象が違うかと思いますが、私はSONYのNW-S14でノイズキャンセリングをかけ、記録されたすべての音を漏れなく拾い堪能。
  結論から申せば、このBIS盤の演奏の唯一無二の価値は、2点。  
 1点目はノイズを含め、一切の編集をしなかったこと。これの何が凄かったかというと、高音域に多く存在するノイズがカットされずに残った部分に、音の最表面に生じるエッジ、力感、感情の発露(言葉でいう子音の摩擦音のようなもの)と言った演奏の魂の「尋常ならざる部分」が一緒に混ざっていたこと。これが演奏全体に明らかに生気を与え、非常に肌触りが生々しい。そしてダイナミクスも例えば第1楽章の出だしの最弱音が、あれほど宇宙の彼方で鳴っているような微かな音量で始まり、cresと共に巨大に膨れ上がり爆発する所や、第4楽章の最弱音で地の底から湧き上がる様な歓喜の歌の盛り上がりなど、あの部分をちゃんと正しい音量レンジで再現したのはこの盤だけではないかと思う。
 2点目は登場シーンから楽章間や拍手までノーカットでCD化したこと。これも他の方も記載の通り、1楽章と2楽章間の間があれほど長いのも興味深いし、第4楽章最後激しいアッチェレランドで昇天して弾け飛んだ後、あの8秒ものその場の全員が呆気に取られ余韻に浸ったような長い沈黙。その後の我に返ったようにパラパラと拍手が鳴り始め、フルトヴェングラーが振り向いたタイミングで、熱狂的な拍手とブラボーの声、壇上の団員や合唱団からの足音を踏み鳴らしてフルトヴェングラーを讃える姿をそのままCD化してくれて、当時の聴衆のナチス後の戦後初のバイロイト音楽祭開幕に寄せた正に歓喜が伝わってくるところなどは、歴史的なドキュメントとして価値も含めて、唯一無二である。
4. Posted by 和田   2022年02月25日 20:12
Joshさん久々のコメントありがとうございます。以前から、EMI盤は本番の演奏ではなく、ゲネプロの演奏ではないかと言われ、本番の録音はバイエルン放送のアーカイヴに眠っているのではないかという説が根強く主張され続けてきました。今回登場したスウェーデン放送所音源は、演奏のコンセプトは同じながら、EMI盤と大幅に異っており、演奏中に聞こえる客席ノイズ音から考えて、「EMI盤ゲネプロ説」は証明されたものと思われます。ただし、BIS盤とEMI盤は同じと思われる箇所もあり、EMI盤は「ゲネプロ録音をメインに部分的に本番録音を使用し編集」ということでほぼ確定かと思われます。肝心の演奏内容ですが、私的には、BIS盤は、EMI盤に比べさらに緊張度の高い演奏だと感じました。本公演は、ドイツの敗戦により中断されていたバイロイト音楽祭の再開を飾る公演として、演奏者達にとっては特別の意味があったわけで、そのことをまざまざと実感させるような演奏になっています。逆にEMI盤は良い意味でリラックスしたというか、本番の演奏にはない伸びやかさがあります。結局のところどちらも充分魅力的で、「本番盤が出た以上EMI盤はもう必要ない」とはならないでしょう。この「公演」を2つのヴァージョンで聴けるとは何たる幸福かと思います。音質的には、EMI盤がエコーの多いややぼやけた音(特に合唱)なのに対し、BIS盤ではエッジの効いた生々しい楽器音が聴けます。それだけでもかなり興奮させられます。合唱もぼやけ感がありません。このBIS盤を聴く前は正直言ってドキドキしました。録音で音楽を聴くのにこんなに緊張するなんて何十年ぶりでしょうか。EMI盤を聴いてから経った年月の長い人ほど、当盤の登場に対する感慨は大きいと思われます。

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Profile

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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