2019年05月26日
ベートーヴェン気質の力強さとある種の朴訥さを髣髴とさせるレーグナー、ベルリン放送交響楽団によるベートーヴェン序曲全集の2枚
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ハインツ・レーグナーが1982年から翌83年にかけてベルリン放送交響楽団を指揮したベートーヴェン序曲全集のリイシュー盤で、当時のドイツ・シャルプラッテン音源を2枚のCDに纏めたものだ。
西側のオーケストラのような垢抜けたスマートでスペクタクルな演奏とは言えないが、彼の堅実な音楽の構築と愚直とも思えるテンポ設定や楽器法から鳴り響くパワフルなオーケストラが、本来の極めてドイツ的で質実剛健な音響を創り上げていることは確かだ。
この時代の旧東ドイツのオーケストラ特有のサウンドは団員のグローバル化と共に現在次第に失われつつあるが、このCDを聴いていると、まだこの時期には彼らの伝統が健在であったことが証明されている。
アバドがほぼ同時期にウィーン・フィルを振った同序曲集と聴き比べると、その鮮やかな違いに驚かされるが、レーグナーの演奏にはベートーヴェン気質の力強さとある種の朴訥さを髣髴とさせるものがある。
ベートーヴェンは生涯にたった1曲のオペラしか作曲しなかったが、改訂版や異なった劇場での初演のために都合4曲の序曲を用意している。
またその他の劇場作品の付随音楽や特別の機会のための序曲を合わせると11曲になり、その総てがここに収録されている。
この2枚組は2011年に初めてCD化された時のリマスタリング盤だが、録音会場となったベルリン放送局SRKホールの残響がやや過剰という印象があり、これはオリジナル・マスターに由来するものと思われる。
ただし音質は良好で、左右へのワイドな音場が感知され臨場感にも不足していない。
10ページほどのライナー・ノーツにそれぞれの曲についての簡易な日本語解説付。
ところで筆者はレーグナーが読売日本交響楽団を指揮してベートーヴェンの「第9」の実演に接したことがあるが、彼のスタイルは、このCDとは異なり、大いに戸惑った覚えがある。
彼は「第9」を振りながら少しも力まず、最強音は中強音、弱音は最弱音というように音量を抑え、きれいな音色で、さながらモーツァルトのようなベートーヴェンを描き出してみせたのである。
しかも、ユニークなのは全曲にいくつかの山があり、そのクライマックスでは余力を十二分に残した指揮者とオーケストラが、肌に粟粒を生じさせるほどの凄絶なフォルティッシモを轟かせたことである。
レーグナーのオーケストラに対する統率力には抜群のものがあり、読売日本交響楽団がいかにしなやかで緻密な音色とアンサンブルを獲得したのは周知の通りだ。
やがて彼は、乞われて同楽団の常任指揮者となり、やっとその芸風の全貌が示されるようになった。
すなわち、彼は前述の「第9」にみられるように、スケールの小さい、短距離のフレージングを持った、軽やかな音楽を奏でる人で、舞台姿や指揮ぶりもそのことを如実に物語っていたのである。
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