2019年05月25日
2016年に亡くなったカナダのテノール、ジョン・ヴィッカーズのワーナーからの追悼盤
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2016年亡くなったカナダのテノール、ジョン・ヴィッカーズのワーナーからの追悼盤になる。
彼がそのキャリアの晩年1983年にパリのサル・ワグラムでセッション録音したシューベルトの『冬の旅』全曲と、CD2には1998年にロンドン・バービカン・センター・シネマで催されたジョン・トランスキーとの聴衆を前にしたトークショー・ライヴが収録されている。
『冬の旅』は、以前発売されていたシューベルト50枚組ボックスには収められていたものの、単独発売は無かっただけに、今回、ジョン・トランスキーによるインタビューも含めた形での追悼企画は歓迎されるところだ。
シューベルトはジェフリー・パーソンズの伴奏でヴィッカーズの声には合った選曲だと思えるし、まだ衰えていなかった巧みなコントロールを効かせて孤高の境地を演出しているが、表現やテンポの変化にやや大時代的な趣味が感じられる。
その点ではむしろVAiミュージックからリリースされているシューマンの『詩人の恋』の方が彼らしいロマンティシズムの表出と自由闊達な演奏に好感が持てる。
やはりヴィッカーズはオペラの舞台でこそ本領を発揮した歌手なのだろう。
しかしパーソンズのピアノは流石にそつなく歌唱を支えるだけでなく、彼の感性に寄り添った伴奏で全体的には質の高いセッションに仕上がっている。
ヴィッカーズの『冬の旅』と言えば、この3か月後に録音されたライヴ盤がかつて知られていたが、そちらは観客ノイズが大きすぎるなどの問題もあったので、音の良いセッション録音の方に分があると思われる。
2枚目のトークショーではヴィッカースのキャリアと彼が取り組んだ作品への解釈などがユーモアを交えて語られている。
インタビュアー、ジョン・トランスキーの質問に答える形でトラック3ではクレンペラーの指揮したベートーヴェンの『フィデリオ』について、5ではワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』、更に6ではブリテンの『ピーター・グライムス』など折に触れて実際の演奏を挟みながらヴィッカースの歌唱のテクニックを探ることができる興味深い構成になっている。
彼はテノール歌手としては決して華やかな存在ではなかったが、クレンペラーやカラヤンからも一目置かれ、母国語以外の作品も自在にこなしたオールマイティーな才能を持った実力派の歌手であったことに異論を挟む余地はないだろう。
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