2019年05月22日
唯一の共演、グリュミオー、ヘブラーによるシューベルトの『ます』/イタリアSQの運命の重圧にあえぐ『死と乙女』
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シューベルトのピアノ五重奏曲『ます』の演奏では、大概弦楽四重奏団のメンバーに著名なピアニストを配してエキストラのコントラバス奏者を加えるのが一般的だ。
ここではヴァイオリン・パートをグリュミオーが弾き、ヘブラーのピアノと相俟ってこの作品にひときわ薫り高い音楽性を聴かせてくれる。
グリュミオーは流石に巧く、またその甘美な音色でシューベルトの抒情の世界を具現しているのが魅力だが、他のメンバーと競い合うというアプローチではなく、ヘブラーと共にかなり抑制を効かせてアンサンブルの醍醐味を堪能させてくれる。
特に第4楽章のヴァリエーションでそれぞれが華やかなソロを弾く時も、決してスタンドプレイにならない細やかな合わせ技が絶妙だ。
ちなみにヴィオラがジョルジュ・ヤンツェル、チェロがエヴァ・ツァコ、そしてコントラバスがジャック・カゾランという顔ぶれだ。
イングリット・ヘブラーは、幾つかの録音でアンサンブル・ピアニストとしても非凡な腕を披露していて、ヴァイオリニストではシェリングとのベートーヴェンのソナタ全曲集とモーツァルトのソナタ選集はCD化されてそれぞれ4枚組でリリースされているが、グリュミオーとはこのディスクに収録された『ます』が唯一の共演になる。
いずれもモーツァルトのスペシャリストで、しかも彼らがフィリップスと契約していたことを考えると僅かに1曲だけ録音したのがシューベルトだったことは象徴的だ。
グリュミオーと組んだ替え難いピアニストはクララ・ハスキルだったことは疑いの余地もないが、ヘブラーとは演奏スタイルの相違があったことは確かだろう。
しかしこの演奏ではそうした違いを超えた音楽家同士の息の合った一期一会の共演が聴きどころだ。
カップリングのイタリア弦楽四重奏団のシューベルト『死と乙女』は1965年の旧盤(ヴィオラがファルテッリ)で、1976年の新盤よりも開放的なカンタービレが輝かしい。
音色は明るいが、強い表現意志の漲った重量感に富んだ演奏を聴いていると、運命の重圧にあえぐ巨人の熱い吐息を浴びるような思いがする。
第1楽章第2主題冒頭の動機や、第2楽章のコーダにみられる、憧れのムードとの対比のさせ方も、まさにベテランの芸だ。
彼らの引き締まったアンサンブルと円熟した語り口が曲のドラマティックな性格をじわじわと紡ぎだしてゆく名演だ。
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