2019年08月02日
アシュケナージ26歳時の青春の息吹き、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、第3番
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旧ソヴィエトから西側に亡命したアーティストの中でも、アシュケナージは若干26歳で早くも祖国に留まることに音楽家としての限界を感じて英国に亡命を果たした。
そこには彼の已むに已まれない東側への絶望感と、堰を切ったように噴出した新天地への大いなる希望があったに違いない。
このCDに収録された2曲のラフマニノフの協奏曲は奇しくも彼の亡命の年、1963年に録音されている。
第2番は亡命直前の3月、そして第3番はその直後9月及び10月のそれぞれがセッション録音になる。
前者はキリル・コンドラシン指揮、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団、後者はアナトール・フィストゥラーリ指揮ロンドン交響楽団のサポートだが、若きアシュケナージのピアノ演奏をしっかりと下支えするとともに、両曲の有するロシア風のメランコリックな抒情を情感豊かに表現しているのが素晴らしい。
後にコンドラシンもオランダに亡命することになるのは偶然だろうか。
何よりもラフマニノフ自身が亡命者だったことも皮肉な事実だ。
作曲家が生涯拭い去ることができなかった憂愁とロマン派の残照を執拗なまでに引き摺った曲想は時代遅れの謗りを免れないが、彼は最高度に洗練されたピアニズムでロマン派の末尾を飾ったとも言える。
近代的なピアノ技法と力強いダイナミズム、さらには豊かな抒情性をも配したラフマニノフの傑作協奏曲を、アシュケナージは若々しい情熱と卓越したテクニックをもって、その音楽的魅力を余すところなく表現し尽くしている。
アシュケナージの演奏には流石に若い頃の磐石なテクニックが縦横無尽に発揮されているが、かと言って決して全面的な名技主義に走ったものではない。
華麗であってもそれを支えるモチベーションの高さが感じられ、迸るような音楽性に溢れていてムード音楽的な雰囲気とはきっぱり決別した高踏派の音楽が聴こえてくる。
チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、飛ぶ鳥落とす勢いであったアシュケナージの好調ぶりを窺い知ることが可能な演奏とも言えるところであり、そのなりふり構わぬ音楽の進め方には、後年の円熟のアシュケナージには考えられないような、凄まじいまでの迫力を感じさせる。
第3番のカデンツァの選択にも彼の作品への注意深い洞察が表れている。
音質については音源の古さのわりには幸い良好なサウンドが再生される。
おそらくこれまでにリリースされた同音源のディスクの中では最も澄んだ音質とピアノの潤沢な音色が鑑賞できるのはブルーレイ・オーディオだろう。
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