2019年06月07日

イタリア・オペラの快楽を、庶民的なイタリア料理の定食で愉しませる名職人パターネ最後の録音


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



1989年5月29日にバイエルン国立歌劇場で《セヴィリアの理髪師》の指揮中に57歳で急逝してしまったジュゼッペ・パターネの最後の録音となったもの。

パターネとボローニャのテアトロ・コムナーレによる当オペラの初録音、ヌッチ以下の主要歌手陣もいずれもこれがレコードでは初役だった。

レコードで有名なわけでもないが、なぜかあちこちの一流歌劇場で一流のバックを常に努めている職人的指揮者というのが何人かいるが、パターネというのは要するにそういう親父だった。

ロッシーニは、18世紀ナポリ楽派のオペラ・ブッファの流れを引きながらそれらを集大成するような傑作を多く残した。

初期のファルサ(笑劇)を経て、24歳の時に作曲した《セヴィリアの理髪師》は、そんなロッシーニの代名詞と呼ぶべき作品だが、洗練の極みとも言える厳しい様式感が、その演奏に求められる。

ギリギリに切り詰められたイン・テンポの造形性に、豊かなカンタービレを込めた“伝統的スタイル”による演奏は、録音においては、決して多くはない。

EMIのヴィットリオ・グイの指揮による歴史的名盤と並んで、このジュゼッペ・パターネの録音は、そんなイタリアの伝統的スタイルを熟知した名演が記録されている。

ロッシーニ・クレッシェンドに代表される緊張感に満ちたスリリングな語法の面白さを、この生彩に富んだパターネの演奏は満喫させてくれる。

気分が乗ったときのパターネは、トスカニーニを思い出させるようなリズムの興奮を伴ったダイナミックな指揮を繰り広げたが、このディスクもまさにその一例、百戦錬磨のヴェテランらしい名演だ。

また、ヌッチをはじめとする歌い手の選び方や演奏のあり方には、英デッカらしい造詣と見識が端的に反映している。

そして何と言っても最もチャーミングなロジーナが聴けるのは、最高のロッシーニ歌手バルトリがデビューして間もなく録音した本盤である。

若きバルトリ(22歳)によるロジーナは、その見事なテクニックもさることながら、それ以上に役柄に与えた生き生きとしたキャラクターの見事さにおいて傑出している。

バルトリほど若々しい美声でロジーナを魅力的に表現した歌手もいないのではないかと思うが、共演のヌッチ、マッテウッツィ他も優れている。

フィガロ役のヌッチも素晴らしさは言わずもがなだが、昔日のストラッチアーリ以来の伝統的なこの役の歌唱スタイルの継承者としての最上の演唱を聴かせてくれる。

アルマヴィーヴァ伯爵役のマッテウッツィは、往年のロッシーニ・テノールとは一線を画したフレージングとアーティキュレーションの妙を示した、呆れるばかりのユニークな名唱だ。

解説でパターネ自ら、これは批判版による現代的演奏ではなく、伝統的な良さを生かした演奏だと断っている。

この演奏は、少しノスタルジックな、ドタバタ喜劇の面が色濃く出た、庶民的なイタリア料理の定食のような味わいと言えるかもしれない。

そしてこれは、時代考証を得た批判版を使えばそれでよしとするポストモダン的インターナショナルな傾向に、オペラの伝統的な面白さというアンチテーゼを突き付けた演奏でもあるのだ。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 01:07コメント(0)ロッシーニ | バルトリ 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ