2022年03月31日
故礒山雅氏が最も高く評価したマタイ受難曲の名盤、バッハの書法をガラス張りにして見せた誠実かつ素朴な再現したバッハの権威レオンハルト
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ピリオド楽器を使った演奏では第一線に位置するグスタフ・レオンハルトのマタイ受難曲は、新バッハ全集によっているが、期待を裏切らぬ名盤である。
レオンハルトのバッハへの永年の傾倒ぶりを如実に感じさせる演奏で、バッハ自身がライプツィヒのトーマス教会で演奏した最終稿をイメージさせるに充分な説得力と、手作りの魅力がある。
表現は常に地に着いており、広い奥行きを感じさせ、穏やかで落ち着きのある運びから「マタイ」の充実した内容がしみじみと伝わってくる。
カール・リヒターのマタイが起こりつつある悲劇的なドラマに深く食い入った表現とするならば、レオンハルトのそれは楽譜から総てを読み取った、バッハその人の宗教観を反映した解釈とでも言うべきだろうか。
それだけに作曲者の書法をガラス張りにして見せた誠実かつ素朴な再現は高く評価したい。
プレガルディエンのエヴァンゲリストは思い入れの無い、淡々とした中に、真摯な語り部としての役割を果たしている。
それは決して無味乾燥な徐唱ではなく、歌詞の意味合いを正確に辿った非常に知的で、しかも完璧なレガート唱法だ。
また2人のソプラノ・ソロをテルツ少年合唱団員から抜擢したことで、この受難曲でのより繊細で崇高な表現を可能にしている。
俗世の欲得から離れた、たおやかなボーイ・ソプラノの歌唱は理屈抜きに新鮮な感動をもたらしてくれる。
更にレオンハルトはコラールにおいてドイツ語のアクセントを強調した波打つような歌唱法を採用している。
これは既に親しまれていた、バッハ以前の古い旋律に新しい歌詞があてがわれる場合のアーティキュレーションを補う手段だが、またこの方法によってバッハが充当した絶妙な和声進行を聴き手に明瞭に感知させる。
クイケン、アンタイ両兄弟がかなめを押さえた器楽を担当するラ・プティット・バンドもこの曲の特質に忠実な再現を心がけたチームワークが秀逸。
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コメント一覧
1. Posted by エリア467 2023年01月02日 15:27


僕は21歳の時にこのレオンハルト盤・マタイ受難曲のCDを購入し、磯山雅先生の「マタイ受難曲」における評論を拝読したのですが、自身が若い頃はこのレオンハルト盤の良さが今一つ理解出来ず、当時は専らガーディナー盤ばかり聴いておりました。
しかし47歳の現在に至って、このレオンハルト盤のマタイ受難曲やロ短調ミサ曲の良さが、ふつふつと静かに徐々に理解出来る様になって参りました。
これからも折に触れて、このレオンハルト盤を愛聴し続けて参りたいと思っております。
リヒター旧盤とは対極の解釈ですが、それぞれに究極の到達点に達しているものと、僕は思います。
間も無く注文したアーノンクール新盤のマタイ受難曲のCDが届きますので、こちらの鑑賞もとても楽しみにしております。
2. Posted by 和田 2023年01月02日 16:15
エリア467さん、真摯なコメントありがとうございます。私の大学時代の先輩がバッハを愛するあまり新聞記者を辞めてライプツィヒに在住しています。挙げられた以外のバッハの大家では、ルドルフ&エアハルト兄弟という高名なバッハ演奏家をご存知でしょう。総指揮のルドルフ・マウエルスベルガーは1889年生まれで、1930年から71年に亡くなるまでクロイツ・カントルの職に、その弟のエアハルトは1903年生まれで、1961年から72年までトーマス・カントルの職にありました。1970年、ドレスデン、ルカ教会で録音した『マタイ受難曲』は2人の仕事の総決算でした。演奏は復古的なバロック時代のスタイルを踏襲しています。この曲はバッハがカントルをつとめていたライプツィヒの聖トーマス教会で初演されましたが、マウエルスベルガー盤はもちろんオケもコーラスも少人数で、女声パートは少年が受け持ち、楽器も可能な限り録音当時の古いものを集めて使われているので、バッハ時代の響きに近いでしょう。この演奏の中に劇的なものを求めようとする人には失望を与えるかもしれません。歌手も表現の過剰をいましめられているかのごとくです。ここには絶対的な神への信頼と、キリストの背負った十字架への静かな問いかけがあります。歌手は総じて男声陣がすぐれており、なかでも若き日のシュライアーの福音史家が素晴らしく、また合唱もきわめて充実しています。これは最も伝統的なバッハ受難曲演奏の頂点となるものであり、現代のものと比べるとくすんだ演奏にも思えますが、この謙虚さには敬意を表します。またのコメントお待ちしております。