2019年07月12日
トランペットの貴公子ナカリャコフ初期の録音集9枚全2巻
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テルデックに録音されたセルゲイ・ナカリャコフがテルデックに入れた初期の録音集9枚を2巻に分けたボックス・セットを紹介したい。
第1集は、バロックから現代までのトランペット協奏曲を中心に、他の楽器のために書かれた作品の編曲物やオーケストラを伴った小品が、初出時のカップリング6枚でクロノロジカルに収録されている。
それぞれのジャケットもオリジナル・デザインが印刷されていて、さながら彼のブロマイド集といったところだ。
尚トランペット用アレンジの殆んどは彼の父親ミハイル・ナカリャコフが手掛けている。
ナカリャコフは15歳でテルデックと契約して以来、コンサート活動と並行して録音にも積極的に取り組んできたが、この頃は現在の彼の音楽性の深みに比べると、その非凡なテクニックに任せて閃きのままに屈託のない軽快な演奏をしているように聴こえる。
しかし彼の早熟さには天性の才能を感じさせずにはおかないセンスのあるカンタービレや節度を持ったクールな解釈、そしてキレの良い超絶技巧など総てが含まれている。
中でもジョリベやトマジなどの20世紀の作品のスピリットを直感的に捉えた機知は聴きどころのひとつだ。
ボックスの写真にも掲載されているように、ナカリャコフはトランペットだけでなくフリューゲルホーンの名手でもある。
高音はトランペットほど輝かしくない代わりに豊かな低音やメロウで陰翳に富んだ音色の魅力と高い表現力に早くから着目して、現在に至るまで彼は頻繁に演奏しているが、それは彼の音楽性を反映させるには理想的な楽器と言えるだろう。
このセットでも後半のCDでフリューゲルホーンの魅力を堪能できる。
ボックス・セット第2集はピアノ伴奏による小品集で、第1集よりもずっと砕けた親しみ易いレパートリーを集めたものだが、こちらも初出盤のジャケットに収納された3枚組になる。
このセットではトランペットのパガニーニと言わしめた天衣無縫の超絶技巧がこれでもかと満載されていて、ここまでやられるといくらか食傷気味になるが、彼にしてみれば若き日のキャリアの一里塚といったところだろう。
むしろ彼のフレッシュな音楽性と繊細な歌心が充分に発揮されているのは『エレジー』と題された3枚目で、このCDは伴奏者でナカリャコフの姉ヴェラ・ナカリャコワの夫でオペラ歌手だったヴラディミール・ムコフニコフのメモリーに捧げられている。
ナカリャコフは1990年にわずか13歳でフィンランド・コルショルム音楽祭でデビューを飾り、翌年にはザルツブルク音楽祭に登場した早熟のトランペッターだが、才能ある少年少女にとってミュージック産業界もある意味で残酷な世界と言わざるを得ない。
契約当初は高収入を約束されても、彼らが本来の自分の方向性に気付いた時には、その才能も気力も消耗し尽くされてしまっていることがままあるからだ。
しかしナカリャコフの場合自己のコントロールを怠らなかったためか幸いコンサートや録音活動を続けながら、近年更に豊かで味のある演奏を開拓している。
この第2集でもフリューゲルホーンによる高い音楽性の表出は、将来の円熟期を予感させてくれる。
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