2020年11月16日
アルバン・ベルクSQによる魅力的なモーツァルトの室内楽選集
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ハイドンの弦楽四重奏への試み、つまり音楽の喜遊性と芸術性の統合が、モーツァルトにおいては既に喜遊性がやや影を潜め、このジャンルが専ら高度な音楽性や内面的な奥深い表現、ひいてはそれらを可能たらしめる自己の作曲技術の開拓を追究した作曲家自身の思索の場となった。
これらの曲集が難産の末に生み出されたというエピソードは天才モーツァルトの語るところだ。
そうした意味でもこのアルバン・ベルク四重奏団の演奏は作曲家の創意工夫と野心的な試みとが明瞭に把握できる秀逸なサンプルと言える。
ウィーンの団体にとって、モーツァルトやシューベルトはまさに自分たちのアイデンティティを示す音楽と言えるからこそ、アルバン・ベルク四重奏団にとってはかけがえのないものなのだ。
鋭敏でクールな解釈は彼らならではのものだが、また鮮烈な表現の中にさりげないウィーンの情緒を感じさせる魅力も持ち合わせている。
すこぶる精妙な重奏を維持しつつ、表現全体として線が太くて積極的、筋をきちんと一本通したものになっていて、その絶妙なバランスが耳を傾けさせる、溌剌として瑞々しく、説得力に富むモーツァルトだ。
ところでモーツァルトは、弾き方いかんで端麗になったり、細部肥大症になったりするし、清楚になることもあれば、官能的になることだってある。
愉悦性の強調も可能なら、悲劇性の強調だって可能なのであって、要するに、すこぶる幅が広い。
アルバン・ベルクの演奏は、決して一部の要素を強調しないのが特色だ。
以前より一層しなやかさを増した表情が、全体にほのかなロマンティシズムを附加し、その陰翳豊かな表現は息を飲むほどの素晴らしさで、どの曲でも余計な力みが完全に抜け、音楽は実によどみなく流れ、瑞々しさに溢れている。
これほど緻密で、しかも人為的作為性というものが感じられない感興豊かな演奏は滅多にない。
7枚組のボックスにはハイドン・セットの6曲とプロイセン・セットの3曲及びホフマイスターK499、そしてマルクス・ヴォルフのヴィオラが加わった弦楽五重奏曲K515、K516と更にモーツァルト自身の編曲になる弦楽四重奏伴奏のピアノ協奏曲K414及びピアノ四重奏曲K493が収められている。
尚録音は1988年から91年にかけて行われたものだが、アルフレート・ブレンデルが加わる7枚目のみが2000年のライヴから採られている。
廉価盤セットながら35ページのライナー・ノーツには曲目紹介、録音データの他に英、独、仏語による簡単な解説付で音質は極めて良好。
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