2019年10月10日
ホッター唯一の『詩人の恋』
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ハンス・ホッターが歌ったシューマンの『詩人の恋』全曲の唯一存在する音源で、ハンス・アルトマンの伴奏による1954年のセッション録音になる。
ただホッターは1962年の初来日の時のコンサート・プログラムにもこの曲集を加えているので、彼が既に歌い込んで手の内に入れていたレパートリーだったことが想像される。
音質は時代相応と言うべきで決して悪い状態ではなく、ピアノの音量レベルがやや低く響きに古めかしさが感じられるが、ホッターの声はかなり良く捉えられている。
『詩人の恋』の第1曲「美しい五月に」はフィッシャー=ディースカウの歌唱を聴くと、待ち焦がれていた春の青空を連想させて、そこにはまだ希望があり、甘やかな憧憬と淡い期待感とが交錯しているが、ホッターの場合は既に灰色の空で来るべき失恋の痛手を早くも予感させ、諦観すら感じさせている。
あるいは過ぎ去った苦い日々を反芻する詩人という解釈も成り立つだろう。
第5曲「ライン、聖なる流れに」は殆んど祈りのようだし、第13曲「僕は夢の中で泣きぬれた」では主人公の悲痛な叫びが聞こえてくる。
そして終曲「昔の忌まわしい歌」は巨大な棺を運んでいく巨人達の行進をイメージさせる堂々たる歌唱で飾っている。
過去には確かアレクサンダー・キプニスの例があったにしてもホッターのような低く重い声を持った歌手がこの歌曲集を採り上げることは稀だ。
しかし彼には聴き手をすっかり納得させてしまうだけの表現力がある。
むしろ歌曲においてこのような異色の解釈が可能であることに驚かざるを得ない。
アルトマンのピアノがもう少し積極的であれば、更にホッターの歌唱に精彩が加わったに違いない。
前半のシューベルト歌曲集は1952年から54年にかけてのセッションで、伴奏は総てアルトマンになる。
曲によってホッターはかなり声量を抑えて密やかな表現を試みている。
それは稀代のワーグナー歌いとしての姿からは意外なくらい軽やかだ。
しかしやはり彼の本領が発揮されているのは『無限なる者に』や『プロメテウス』『タルタロスの群れ』などのスケールの大きいドラマティックな作品だろう。
尚音源は総てモノラル録音で、バイエルン放送局用のテープからオーストリア・プライザー・レコーズが当初LP盤でリリースしていたものだが、1987年のディジタル・リマスタリングによってCD化された。
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