2019年11月20日
1954年デ・サーバタの『ヴェルレク』、恐るべき集中力と統率、LP板起こし復刻盤
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このCDはイタリアHMV音源のLP盤から板起こしした復刻盤で、LPと聴き比べてみたが全く遜色のないほど良好な音質が再現されている。
むしろリマスタリングでは本家EMIからリファレンス・シリーズとしてリリースされているCDを上回っている。
ただし後半の余白を埋めるために収録されたライヴからのオペラの序曲集及びレスピーギの『ローマの噴水』に関しては音源自体が古く、また経年劣化でマスター自体がかなり消耗しているために音質的には期待外れだった。
ヴィクトル・デ・サーバタの数少ないスタジオ録音のひとつだが、プッチーニの『トスカ』と並んでスコアから横溢するドラマを引き出す彼の恐ろしいほどの鋭い洞察力と、ソリスト、オーケストラ、コーラスを一瞬の弛緩もなく緊密に統率する非凡な手腕が示された名演。
1954年にミラノ・スカラ座管弦楽団及び合唱団を振ったモノラル・セッション録音で、当時こうした大世帯の音響を許容するだけの録音技術がまだ充分に開発されていなかったために音質ではそれほど恵まれていないが、音楽そのものからは強力なメッセージが伝わってくる演奏だ。
4人のソリストの中でも驚かされるのはシュヴァルツコップの後年には聴かれないような大胆で奔放とも言える歌唱で、おそらくこれは指揮者デ・サーバタの要求だと思われる。
後半の『リベラ・メ』のドラマティックな表現や『レクイエム・エテルナム』で聴かせる消え入るようなピアニッシモの超高音も彼女の並外れたテクニックによって実現されている。
また『アニュス・デイ』でのドミンゲスとの一糸乱れぬオクターヴで重ねられたユニゾンの張り詰めた緊張感の持続が、最後には仄かに明るい希望を残していて極めて美しい。
テノールのディ・ステファノはライヴ演奏でトスカニーニにも起用された『ヴェルレク』のスペシャリストで、彼の明るく突き抜けるような歌声は宗教曲の演奏としては異例だが、ベルカントの泣き節たるこの作品ではすこぶる相性が良い。
第10曲『インジェミスコ』の輝かしさは教会の内部より劇場空間での歌唱でこそ圧倒的な効果を上げる一種のオペラ・アリアであることを端的に証明している。
バスのチェーザレ・シエピについて言うならば、この曲のバスのパートをこれだけ完璧なカンタービレで歌い切った例も少ないだろう。
その深々として練り上げられた声質はア・カペラの重唱においても音程が正確で、他の歌手と共にヴェルディが書き記した微妙に移り変わる和声のモジュレーションを明瞭に追うことができる。
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