2019年07月07日
溢れるほどの音楽性とヴィルトゥオジティ、壮年期リヒテルのシューマン・ライヴ
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前にも書いたことだが、このプラガ・ディジタルスのSACDシリーズは玉石混交で、リリースされている総てのディスクを手放しでお薦めするわけにはいかない。
勿論リヒテルの演奏自体については溢れるほどの音楽性とヴィルトゥオジティのバランスが絶妙だった1950年代壮年期のライヴでもあり、彼のかけがえのない記録であることに異論を挟むつもりはない。
しかし録音自体の質とブロードキャスト・マスターテープの保存状態が悪く、細かい音の揺れやフォルテで演奏する時には再生し切れない音割れが生じている。
それ故この音源をあえてSACD化する必然性があったかどうかというと首を傾げざるを得ない。
幸い最後の『ウィーンの謝肉祭の道化』が唯一まともな音質を保っているが、結局いくら歴史的な名演奏でもオリジナルの音源自体に問題があれば、たとえSACDとしてリニューアルしても、驚くような奇跡の蘇生を期待することはできない。
むしろより安価なレギュラーのリマスターCDで充分という気がする。
『交響的練習曲』は1953年12月12日のプラハ於けるライヴのようで、リヒテルの集中力とダイナミズムの多様さ、そして途切れることのない緊張感の持続が素晴らしい。
この演奏で彼は遺作のヴァリエーション5曲を第4変奏と第5変奏の間に挿入している。
哲学的とも言える抒情の表出も秀逸だ。
ただし何故かエチュード8,9,10番が抜けている。
理由は不明だが、この作品の出版に由来する曲の構成上の問題から、本人が当日演奏しなかったことが予想される。
また1959年11月2日のプラハ・ライヴの『幻想曲ハ長調』は、覇気に貫かれた名人芸が聴きどころだが、音質の劣悪さが惜しまれてならない。
この曲も数種類の異なったソースが残されていて、中でもデッカのザ・マスター・シリーズ第7巻には1979年のフィリップスへの良質なライヴ音源が収録されている。
3曲目の録音データ不詳『ウィーンの謝肉祭の道化』で、リヒテルはこの曲のタイトルからイメージされる諧謔的な表現には目もくれず、むしろピアノのためのソナタとしての構成をしっかりと捉え、シューマン特有の凝縮されたピアノ音楽のエッセンスを抜き出したような普遍的な価値を強調しているように思う。
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