2019年07月24日

歴史に呼応する自分自身との関係の発見


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本書のタイトル『自分のなかに歴史をよむ』は著者阿部氏の歴史を理解する上での、自分自身の接し方を解説したもので、彼にとって歴史を理解することは事件の流れをクロノロジカルに記憶することではなく、その根底に潜んでいる自分の内面と呼応する関係を発見し、納得した時初めて理解できたと言えるとしている。

前半では自伝的な記述が多く、彼が少年時代に預けられた修道院での生活が思い出されているが、それは彼とヨーロッパを繋いだ鮮烈な体験であり、その後の彼の生涯を決定づける経験になっていることが理解できる。

しかし体験を活かすには、それを対象化する自己の意識と幼い頃の感受性を忘れないことが重要だとしている。

苦学生だった頃、優れた教師に恵まれ、借金をしながらも自分の進むべき道を模索し続けたことで、彼は35歳でドイツ留学を果たすが、ドイツでの古文書研究から想像していなかった副産物を得ることになる。

それが中世の差別意識の萌芽で、この研究は帰国してから『ハーメルンの笛吹き男』として実を結ぶ。

彼が調査の課題としたドイツ騎士修道会の古文書を読んでいる中で、偶然1284年6月26日にハーメルンの町から130人の子供達が行方不明になったという記録を見つけた時、体に電流が走るような戦慄を覚えたと書いている。

それは幼い頃に読んだ不思議なネズミ捕りのメルヘンが根拠を持つ実話だったことへの衝撃だった。

しかしこの笛吹き男が当時忌み嫌われ、差別されていた賤民だったことから彼の興味は俄然差別意識の原因とその成立の解明に向かう。

ただしこの男は実際には笛吹ではなく、当時貧困層の外部への入植を世話する斡旋人であったと考えている。

そこで阿部氏は何故彼らが賤視されるようになったかを調べるに至ったようだ。

実はそれがキリスト教の布教に大きく影響を受けていることに気付く。

中世に生きた人々の宇宙観は人間が制御し得る小宇宙とそれが不可能な大宇宙という関係にあったようだが、キリスト教はそれを否定し、総ては全能の神が創造した唯一の宇宙という教えが定着する。

それによってそれまでふたつの宇宙の狭間で生業を営んでいた死刑執行人、墓掘り、放浪職人や旅芸人などは、その神秘性を暴かれ職業的権威が失墜し、必要な職業であるにも拘らず彼らは単なる汚れ仕事に携わる人、あるいは河原乞食としての賤視が始まる。

この現象を理解することは容易ではないと著者自身書いているが、特殊な能力を持つ者が公の立場から一度排除されると、かえって周りからやっかみを買うだけでなく、彼らに抱いていた畏怖の念が歪められて差別の対象になるという説には、人間にそもそも備わっている差別意識を解明しているようで重みがある。

だからハーメルンの町では多くの子供達を連れ出した張本人として辻芸人の笛吹き男に責任転嫁したメルヘンが形成されていったというのが事実らしい。

勿論メルヘンでは約束したネズミ捕りへの支払いを拒否した町の裏切りというスパイスも巧みに加えて教訓にしているのだが。

世界宗教を標榜するキリスト教では1人でも多くの信者を獲得するために、民族、文化や言語の隔たりを超越した合理性が求められるようになる。

ヨーロッパと日本の間に存在する隔たりを説明する時、産業革命をその根拠の裏付けにする学者もいるようだが、確かに物質的あるいは時間的な合理性には頷けるとしても、より精神的な合理性は阿部氏の言うように中世を通して定着するキリスト教の影響が大であるとする考察には説得力がある。

ここからは日本の負の部分が語られている。

つまり合理性に欠けることが閉鎖性を促すという考えで、欧米では能力次第でアジア人が大学教授やオーケストラの指揮者、バレエのプリマにもなれるが、日本の伝統芸能の世界では完全に門戸が閉ざされているということだ。

近年大相撲で横綱になる外国籍の力士も出てきたが、それは相撲部屋という因習を甘んじて受け入れるという大前提があり、相撲協会でも力士不足を解決する已むに已まれぬ事情があることも事実だろう。

西洋人が能や歌舞伎役者になることは著者の言葉を借りれば絶望的だ。

阿部氏は別の著書で、日本の旧帝国大学は西洋からその制度を取り入れたものの、実際には国家のために尽くす官吏や上級役人を養成する施設で、学生が自主的な研究で成果を上げる場ではないと書いている。

こうした現状からは高度な学術の研究や発展は望むべくもないとしている。

確かに優秀な能力を持つ者が、国にへつらうことを学生時代から鍛えられているというのは耳の痛い話だ。

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classicalmusic at 00:20コメント(0)筆者のこと | 芸術に寄す 

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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