2019年06月22日
ドイツの伝統を感じさせながら、復古調にならないツィンマーマンのモーツァルト
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フランク・ペーター・ツィンマーマンは、本当に久しぶりに出現したドイツの本格派男性ヴァイオリニストとして、ヴァイオリン音楽好きの期待を集めている。
女性ではすでにアンネ・ゾフィー・ムターが10代から大活躍していたが、この2人は年齢も近く、ツィンマーマンの側はかなりムターを意識していたようだ。
彼は1990年代初めからドイツ物に限らず、新録音を次々に出し、しかもそれらがいずれも高水準なのは立派だ。
再三の来日公演でも、ちょっと聴くと何もしていないようでいながら、彼ほどヨーロッパ音楽の伝統を感じさせる人はいないと思わせる。
このモーツァルトも、本当に若いうちから大成してしまったかのような大人の演奏だ。
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、ピアノが歌っている合間にヴァイオリンがそっと「入ってもいいですか」というように割り込んでくることのほうが多い。
実際には「ヴァイオリンのオブリガード付きピアノ・ソナタ」なのだ。
ツィンマーマンのヴァイオリンと、パートナーのロンクウィッヒのピアノは、こうした際の呼吸が実にいい。
例えば『変ホ長調K.380』の第1楽章冒頭からピアノが勢いよく飛び出して第1主題を奏するが、ヴァイオリンは完全なオブリガードだ。
こうした曲ではピアニストの表現力がヴァイオリンと同じくらいに問われる。
他の主題もピアノ主導で、ロンクウィッヒは、単独でソナタ・アルバムを作ってもいいほどに純度の高いピアノを弾いている。
しかも、この「合間」をうかがうツィンマーマンのヴァイオリンは、ほんの何気ないフレーズの出だしや終わりの部分に微妙な強弱があり、同音型の反復時にきかせるかすかなエコー効果とともにまさにドイツの音楽家が19世紀以来営々と築いてきた伝統を感じさせる。
音そのものの純度が高いこともモーツァルトのヴァイオリン作品の再現には欠かせないが、ほとんど全編が、美声スーブレッド歌手のアリアのようだ。
これを「古い」とか「若いのに保守的に過ぎる」とか批判する見解もあるかもしれないが、ツィンマーマンのモーツァルトは、当然のことながら現代に生きる、録音当時20代の若者の手になる音楽だ。
古いようでいながら、決して復古調ではないし「伝統」に安住した演奏でもないのが気持ちいい。
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