2020年08月05日
ボストリッジ優美で繊細、爽やかな印象のシューベルト歌曲集
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ボストリッジの歌唱は伝統的なドイツの歌唱法から一歩距離をおいた立場で、そうした伝統にとらわれない比較的自由で新鮮な解釈と表現に特徴がある。
その自然発生的で繊細な歌心を天性の優美で軽やかな美声に乗せて歌い上げるところが最大の魅力だろう。
ドイツ系テノールには往々にして不足しがちな声質の柔らかさと、明るく軽やかな歌唱が実に爽やかな印象を残してくれるシューベルトの歌曲集だ。
また彼の歌には特有の気品が漂っていて、ゲーテやフォン・コリンなどのオリジナルの詩が持つ高邁さも遺憾なく再現している。
この2組はピアニスト、ジュリアス・ドレイクの伴奏による歌曲集で、リリカルでいくらか感傷的な愛の歌を中心に集められている。
決してまとまった曲集ではないし、またごくポピュラーな曲も少ないが、ひとつのチクルスを聴いているような統一感がある。
例えば18曲めの『リーゼンコッペの頂で』の最後のフレーズはsei mir gegruesst(私からの挨拶を)で、次の19曲は同じ歌詞が繰り返されるといった曲順配置への配慮がある。
とりわけリリカルでいてしかも物語性を持った曲、例えば『鱒』、『ガニュメード』、『春に』そして『小人』などの歌詞への鋭敏な洞察力を反映させた、語り口調の巧さも特筆される。
またジュリアス・ドレイクの肌理の細かい表情豊かな伴奏も聴き所のひとつで、彼が作り出すカラフルな音色の美しさで、歌の背景を浮かび上がらせる奏法は流石だ。
ドレイクの伴奏は比較的控えめだが、それがかえってそれぞれの曲の特徴を明確に捉えた無駄のない表現になってボストリッジの持ち味を最大限活かしているのが好ましい。
録音は1996年及び2000年で余韻のあるふくよかな音質はARTリマスターの中でも成功したもののひとつだろう。
歌詞の日本語対訳が欲しい方は『対訳J.S.バッハ声楽全集』の著者、若林敦盛氏のサイトの対訳の項を訪れると、このディスクに含まれる殆どの曲を見つけることができる。
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