2019年07月30日
二百年前の天才の魂と呼応するカラヤン晩年の名演、モーツァルト『レクイエム』
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カラヤンは、モーツァルトの『レクイエム』を3回録音しており、これは、1986年に録音されたもので最後のものになる。
以前の2回がオーケストラにベルリン・フィルを使用していたのに対し、この録音だけがウィーン・フィルになっているが、合唱は、いずれもウィーン楽友協会合唱団が努めている。
3回の録音の中では、やはりこの最後の録音が最も良く、モーツァルトの『レクイエム』演奏の頂点に立つ稀有な名演と言えよう。
この演奏には、真に偉大な芸術家に晩年が訪れた時のみに聴くことのできる種類の崇高な表現がある。
ジュスマイアー版によって演奏しているが、19世紀から受け継がれ20世紀が求めたモーツァルト像の一つの理想的な具現である。
冒頭の静かな祈りに満ちたpの入り、トロンボーンに導かれて、“Requiem aeterna,”(永遠の安息)と歌いだす時の突き刺すような悲しみのf、どちらも音の純粋な美しさに溢れている。
続く“kyrie”(キリエ)でのフガートの構築性、“Dies irae”(怒りの日)のエネルギッシュな緊迫感、そして、モーツァルトの筆が止まった“Lacrimosa”(涙の日)の光さす永遠の表現と、どれを取っても晩年のカラヤンが二百年余り前の同郷の天才の魂と呼応したとしか思えないような素晴らしい表現が聴ける。
特に“Lacrimosa”では一つ一つの音符を長めに取り―特に合唱の八分音符―重厚な響きで悲しみを表現して行く。
さらに、それを具現するウィーン・フィルの柔軟な表現力とウィーン楽友協会合唱団のスケールの大きい表現も忘れられない。
また、ソリストもテノールのコールに不安定な部分が見られるものの他はオーケストラと合唱が一体化した卓越した歌唱を聴かせてくれる。
最後は、冒頭の“Tedecet hymnus”(賛歌を捧げ)の音楽が回帰して、“Lux aeterna”(永遠の光り)と歌い出されるが、スコアの上では歌詞の違いしかない。
しかし、カラヤンは微妙にテンポを落とし、より静謐なニュアンスを出している。
続く“Cum Sanctis”(主の聖人と共に)でもキリエのフガートが回帰するが、カラヤンは、ここでも音の芯を太くしてより重厚な表現で単なる冒頭の再現には終わらせない解釈を行なっていて、素晴らしい説得力がある。
ここは天才の直観で流れとして自然にそうなったのかもしれないが、カラヤンの指揮者としての最高の姿がここにある。
いずれにしてもこのカラヤンとウィーン・フィルの録音は、数ある『レクイエム』の録音の中でも最も優れた演奏であることは間違いない。
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