2019年08月09日
ルービンシュタインのショパン全集、作品を自家薬籠中にした真似のできない深み、価値あるリイシュー盤
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既に過去数回に亘ってリリースを続けているRCA音源のルービンシュタイン・ショパン全集には、巨匠の最後の芸風が刻み込まれている。
特にこのセットの為に新しいリマスタリングが行われたわけではないので、言ってみれば焼き直しのリイシューに過ぎないが、前回の11枚組を、曲目を変更せずに順番を入れ替えて10枚にまとめ、装丁を一新したところに価値がある。
幅広いレパートリーを誇っていたルービンシュタインではあるが、彼が最も身近に感じていた作曲家、そして最も得意にしていた作品は、ルービンシュタインと同じくポーランド生まれであるショパンだろう。
CDの殆どが、彼が新即物主義的な解釈に移った後の1956年から67年にかけてのステレオ録音で、一見あっさりした表現に隠された筋の通った解釈には真似のできない深みがある。
ただSP時代のルービンシュタインのショパンは、もっと激しい“動的な”演奏ぶりであったが、70歳を超えてからのこの録音は、さすがに淡泊になっている。
それでも演奏は、巨匠の芸と言うべきか、華やかさと粋があり、現代では聴くことのできない名人趣味が横溢していて見事であり、まさに曲を自家薬籠中にした自信の賜物と言えよう。
19世紀的な名人気質を残しながらも、新しいワルシャワのパデレフスキー版に挑戦を試みるあたり、ルービンシュタインの魂の若さに打たれる。
そして傍若無人に名人芸を発揮するのみでなく、楽譜に対する忠誠心と作品への謙虚な尊敬も、この大家は決して忘れてはいない。
確かに現代に生きる私達にはルービンシュタイン以上にスマートで、目の醒めるような鮮やかな演奏が当たり前になっている。
しかし彼の一種冒し難いまでの風格や情緒と、特に「マズルカ」で聴かせる、洗練された中にも彼らの祖国ポーランドの民族的な郷愁を漂わせた特有の佇まいは、替え難い魅力に溢れている。
「ワルツ」では、酸いも甘いも噛み分けた往年のサロンのスターが、かつてのダンディぶりを回想しながら、その思い出に耽っているようなムードが、なんとも魅力的で美しい。
「ノクターン」の演奏も素晴らしく、静かな抒情の流れを大切にした、大家巨匠の芸が存分に味わえる。
「ポロネーズ」においても、ルービンシュタインは、ポーランド人でなければ出せない味を窺わせ、その豪快な演奏は実に感動的でもある。
彼は時代によって著しく演奏スタイルを変えたピアニストだが、このセットでは9枚目の1946年モノラル盤だけが僅かに、過ぎ去った華やかなヴィルトゥオーソ時代の片鱗を残していて興味深い。
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