2019年11月14日
チャーログの貴重な無伴奏トラヴェルソのための作品集
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このディスクがリリースされた当初からの愛聴盤で、1997年の録音になる。
その頃無伴奏トラヴェルソのための曲集と言えば、バルトールド・クイケンがオリジナル楽器のG.A.ロッテンブルグを演奏して録音をしたテレマンの『無伴奏フルートのための12のファンタジー』が唯一で、これは当時としては異例に早い1978年のセッションだった。
しかしその後無伴奏の作品のみを集めた企画は、採算性の都合もあって制作されなかったのが実情だろう。
演奏者のベネデク・チャーログはハンガリーの中堅トラヴェルソ奏者で、既にこれまでにも数多くのCDをリリースしている。
その中には普段あまり聴くことができないJ.Ch.バッハの6曲のソナタやコレッリのヴァイオリン・ソナタからの18世紀の編曲版など興味深いものが多い。
この曲集では中心に大バッハの『無伴奏フルートのためのパルティータ』及びC.Ph.E.バッハの『無伴奏フルートのためのソナタイ短調』という、トラヴェルソ用のピースとしては音楽的にも、また技術的にも最高度の表現を要求される2曲を置いて、その他にテレマンの『ファンタジー』から6曲、クヴァンツの組曲とJ.Ch.フィッシャーの『メヌエットのテーマによる変奏』が収録されている。
尚クヴァンツの組曲は独立して書かれたものではなく、彼の『初心者のための練習用小品』からホ短調の舞曲を5曲組み合わせたものになる。
チャーログは音楽的な中庸をわきまえた堅実なテクニックを持った演奏家で、彼の師クイケン譲りのごく正統的で飽きのこない解釈とその再現に特徴がある。
彼がこの録音のために使用している楽器は全曲ともA.G.ロッテンブルグ製作の1745年モデルで、インスブルックの古楽器製作者ルドルフ・トゥッツの手になるコピーだ。
このトラヴェルソは後期バロックを代表する名器で、転調にも比較的強くスケールにもバランスのとれたオールマイティな性能を備えているが、どちらかというとこうした曲目には音色がいくらか軽めで、またf'''音が出しにくい欠点がある。
この音はC.Ph.E.バッハの『ソナタ』に3回現れるが、チャーログは巧妙なテクニックでカバーしてこの難音をクリアーしている。
一方大バッハの『パルティータ』の「アルマンド」には最高音のa'''が使われている。
この演奏で彼は後半部の繰り返しを省略して1回だけに留め、不釣合いな2回の音の突出を回避している。
これらの曲はクイケンやハーゼルゼットなどの大家が、より適したモデルのトラヴェルソを使って演奏しているので、楽器の選択という点でこのセッションが理想的というわけではないが、デビューしたばかりの若手の演奏家の一途な情熱が感じられるところを高く評価したい。
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