2019年11月28日
フランス・バロック音楽の粋、マレへの惜しみない共感とサヴァルの哲学、ピリオド・アンサンブルによるサウンド・トラック
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ルイ王朝時代の宮廷ガンバ奏者、マレン・マレの回想を描いた映画アラン・コルノー監督『めぐり逢う朝』自体は、フランスの作品らしく深い陰翳に包まれた瞑想的なストーリーが魅力的だ。
それ以上にサヴァルの音楽はそれに自在な空気感を与えて、ある時は更に陰鬱に、またある時は沈みがちなシーンに仄かな幸福感を醸し出しているのが秀逸だ。
作曲家同士の師弟の確執を扱った一種の音楽映画であることは事実だが、それは天才の生涯を美化しただけの一昔前の安っぽい作曲家の伝記映画とは一線を画した、主人公が犯した取り返しのつかない罪への後悔と内なる懺悔が恐ろしいほどのリアリティーで迫ってくる。
サヴァルが映画音楽を手掛けたのはこれが最初かも知れないが、ピリオド・アンサンブルによるサウンド・トラックが過去になかったものだけに、周到な選曲と古色蒼然とした音色が映像と離れ難く結び付いて、この作品には不可欠な一端を担っていることを認めざるを得ない。
このディスクでのそれぞれの曲の配列は映画の中のストーリーの進行とは無関係だが、曲順は決して脈絡のない編集ではなく、1枚のサウンド・トラック盤として完結した構成を考えたものだろう。
それ故第1曲を映画の半ばで、栄誉を極めたマレが演奏するリュリの荘重な『トルコ行進曲』で開始して、最後を映画冒頭で主演のジェラール・ドパルデューの顔のアップとともに流されるマレの『聖ジュヌヴィエーヴ・デュ・モンの鐘』で締めくくっていることで編集者の意図が容易に理解できるだろう。
あとは主にサント=コロンブとマレの作品から選ばれており、とりわけ映画で繰り返し流れるサント=コロンブの「涙」は、聴く者を深い瞑想の世界へ呼び込む。
むろん映画の諸場面を思い出しながら聴くのがよいけれども、まったく映画を知らなくても、フランス・バロック音楽、特にヴィオールの名曲集として楽しめるだろう。
13曲目は、マレのヴィオール曲集第4巻所収の「冗談」である。この虚無的な旋律が、サント=コロンブの娘マドレーヌとマレの愛の場面で使われていることは、ほどなく訪れるふたりの破局を暗示しているようで、なんとも忘れがたい。
素晴らしい音質が体験できるのも特徴で、サヴァルが自主レーベル、アリア・ヴォクスを立ち上げて以来、常にハイブリッドSACD盤をメインにリリースしている。
その理由は、自身ガンビストでもある彼がヴィオールのような繊細な音色を持つ古楽器の音の忠実な再生と臨場感に富むサウンドに逸早く着目したからに他ならない。
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