2019年12月06日
「古楽演奏の名盤」「バッハの至福」、音楽最優先、感動最優先のアンサンブルによる「豊かさ」に溢れた名演
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20世紀後半の演奏の世界に新しい流れを作り出したのが古楽グループであった。
古楽演奏の精神という考え方は、作品は作曲者が生き、耳にしていたように再現されるとき、最も正しく、また本来あるべき姿で甦るということに要約されようが、こうした動きは1970年代以降の世界的なうねりとなり、各地に古楽器オーケストラが誕生した。
守備範囲はバロックから古典派というのが初期の傾向であったが、彼らの進出ぶりは目覚ましく、楽譜の読み、スタイルの研究、知識の拡大、そして何よりも深化されていく演奏技術などが相互に、それもプラスの方向で影響を与え合って演奏の世界を一変させた。
21世紀となった今、こうした成果はモダン・オーケストラにも取り入れられるようになってきたし、古楽オーケストラも対象領域を拡げるなど事態は流動化しているが、ベルギーに1972年に創設されたラ・プティット・バンドは守備範囲をいたずらに拡大することなく、彼らが得意とし、また「好きだ」と言える作品に勢力を集中、古楽オーケストラのリーダー的存在感と品格とを保ち続けている。
創設者はバロック・ヴァイオリンの名手シギスヴァルト・クイケン(1944年生まれ)だが、コンサートマスターに寺神戸亮、チェロの首席には鈴木秀美らを擁するなど日本の名手たちも多数参加しており、狭いセクト主義に傾くことのない音楽最優先、感動最優先のアンサンブルである。
もちろんバッハは彼らの中心的レパートリーだが、不思議に《ブランデンブルク協奏曲》のような人気曲に対しては慎重であった。
歴史的名作の再現には、完璧なる人材と十分なる準備期間、そして演奏の熟成度が不可欠との判断があったのだろうか、ラ・プティット・バンドは結成から20年以上が過ぎた1993年から翌年にかけて、ようやく録音に踏み切ったのである。
満を持して取り組まれたバッハの名作だが、結果は、単に巧い、美しい、洗練されているといった次元を超えた「豊かさ」に満ち溢れている。
古楽オーケストラならではのふくよかで温かい音色、緩急も自在なアンサンブルの妙技、演奏家一人一人の顔が見えるような人間的味わい、そして演奏にかける気迫などを通して、聴き手は名作の名作たる由縁を再確認するとともに、その喜びに浸るように味わうことが可能となっている。
狩りのホルンの絢爛たるソロが屋外的興奮へと誘う〈第1番〉、トランペットに替えてホルンがソロを務め、しっとりとした華やかさを感じさせる〈第2番〉、規模は小さいながらイタリア的合奏の魅力を満喫させる〈第3番〉、独奏ヴァイオリンとリコーダーの掛け合いが楽しい〈第4番〉、これ以上に華麗で躍動的な幸福感はないと言いたくなる〈第5番〉、いぶし銀のヴィオラ・ダ・ガンバが光る〈第6番〉など、いずれも時を忘れて聴き入らせる名演である。
作品が喜んでいるような演奏と言ったら、一番分かりやすいのかもしれない。
技術だけでは名演にはならない。
経験、学識、相互理解、年輪がミックスされて「味」が出てくる。
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