2019年12月24日
祖国の危機と自由への憧れ、アンチェルの『我が祖国』
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数年前にタ−ラ・レーベルからリリースされたCDのリニューアル盤になる。
1枚目はアンチェルの亡命後の赴任先、トロント交響楽団との「モルダウ」のリハーサルのモノラル録音、2枚目が1968年のプラハの春音楽祭での主兵チェコ・フィルハーモニーとの『我が祖国』全曲ライヴ・ステレオ録音で、このセットのメイン・ディスクだ。
当時カナダではまだクラシックの商業録音が一般的ではなかったためか、アンチェルがトロント交響楽団を振った音源は量的にも少ないだけでなく、音質でもモノラル録音の貧弱なものが殆どで、彼にとっても不本意だったことが想像される。
むしろ亡命前のチェコ・フィルとの精力的な録音活動によってアンチェルの真価が発揮されていることは否めない。
このディスクでもトロント交響楽団とのリハーサルはモノラルだが、よく聴いているとアンチェルがまずオ−ケストラに求めているのが、スコアを忠実に再現することと、アンサンブルを几帳面に整えることだ。
決して団員にチェコの音楽の何たるかを振りかざしたり、ボヘミア的感性を要求したりはしない。
これは彼のオ−ケストラ・ビルダーとしての基本的な姿勢と思える。
そのうえで彼ら自身から湧き上がってくる音楽性を大切にしているのではないだろうか。
ライナーノーツにアンチェルのリハーサル中に話す言葉の日本語訳が掲載されているのは親切な配慮だ。
チェコ・フィルを振ったプラハ・ライヴはソヴィエトのプラハへの軍事侵攻が始まる3か月ほど前の歴史的録音で、幸い良好なステレオ音源で残されている。
当日はほぼ満席のコンサートだったにも拘わらず客席からの雑音は巧妙に抑えられて、ややドライだが濁りのないサウンドに好感が持てる。
チェコ・スプラフォンからはDVDもリリースされていて、彼らの映像を鑑賞することもできるが、音質ではリマスタリングされたこのディスクが優っている。
この演奏には祖国が危機に曝されているリアルタイムの切迫感と、自由への憧れが張り詰めた緊張感の中に否応なしに感じられるし、曲目が他でもないスメタナの『我が祖国』であることも更に拍車を掛けている。
しかしアンチェルは狭隘な民族主義に溺れることなく常に普遍的で、しかも高邁な精神を歌い上げているところが一層感動的だ。
ちなみに同じメンバーでのセッション録音もスプラフォンに入れている。
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