2020年06月25日
人間とは永遠の敗北者、カミュ『ペスト』、現代のコロナ禍に生きる私達にも共有できる感動的な作品
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
ペストの蔓延によって完全にロックダウンされたアルジェリア、オランの街に閉じ込められた人々の閉塞感と、暗中模索の中で地道な治療活動で対応せざるを得ない医師リウー達の苦悩、そして殆ど偶然に疫病の終焉を迎える時の彼らの心境が、現代のコロナ禍に生きる私達にも共有できるだけに感動的な作品だ。
彼らは保健隊という独自の救助班を打ち立て、日ごとに猛威を振るい始めたペストの感染者やその家族の隔離、血清の開発や患者への治療や手術だけでなく厳密な統計を取る。
これもまさに現在必要不可欠な対策であり、状況は何一つ変わっていないが、疫病の名称やデータの公表を渋る上層部の方針は、どこぞの国の政府の政策と皮肉にも酷似している。
オランの街からペストが去りつつあったある日の夜に、リウーと親友タルーは仕事の後、海へ向かい、無言で海水浴をするシーンが印象的に描かれている。
それは2人にとって束の間の平穏であったが、リウーの後ろ姿にはカミュの言う永遠の敗北者の影が付きまとっている。
やがてタルーもペストの最後の犠牲者の1人になってしまうし、リウーには療養先から妻の訃報が知らされる。
この物語には若い記者ランベールの心境の変化が重要なアクセントを与えている。
彼はオランに仕事で訪れたが、都市封鎖によってパリにいる彼女のもとへ帰れなくなってしまう。
最初はどんな手立てを使ってでも街からの脱出を試みようとするが、ようやく金で買収した兵隊が都市の門を開けてくれるという日に、ランベールは街に留まることを決意し保健隊に入って救助活動を始める。
その他にもある少年の無惨な死を目の当たりにして揺れ動くパヌルー神父の宗教観や、ペストが過ぎ去った後、人々が再び街に繰り出して歓喜の声を上げている中で、発狂してしまう犯罪者コタールなど登場人物1人1人に語らせるカミュの文学的手腕は圧巻だ。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。