2020年07月10日
理由のない厄災に、いかに向き合うか、カミュの不条理哲学を知るための手引きとして
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地中海に面した仏領アルジェリアの都市・オラン。
おびただしい数の鼠の死骸が発見され、人々は熱病に冒され始める。
ペストという「不条理な厄災」に見舞われた街で、人々はいかに生きてゆくのか。
ノーベル賞作家アルベール・カミュ(1913~60)の傑作小説『ペスト』を、現代的視点で読み解いたのが本書である。
カミュ代表作の長編小説『ペスト』は、現在私たちが立ち向かっているパンデミック、コロナウィルスへの対策と事情が酷似していることもあって、予備知識なしでも興味を持って読み進めることができる作品だ。
実際には一連の前作『カリギュラ』『異邦人』及び『シーシュポスの神話」のいわゆる不条理の三部作の後に来る作品で、『ペスト』によって彼の不条理への哲学を推し進めていくことになる。
人間である以上不条理な世界での共存は避けられない。
その中で個人がどういう人生を選ぶかの可能性がここに示されている。
つまりカミュが『ペスト』で巧みに描き出したそれぞれの登場人物にその選択肢が託されている。
このテキストを学習することで人物に託されたメッセージを探り、彼の思想のより深い部分を認識しておくことは、他の作品を読む時にも好都合だろう。
またカミュの生い立ちや人となりを知っておくことは、こうした作品群に対する理解を一層深めてくれる。
父親はカミュがまだ一歳だった頃、第一次世界大戦で戦死し、殆ど無学文盲で障碍者だった母とともに貧困の中で成長する。
『ペスト』の中で医師リウーがペストとはあなたにとってどういうものかと問われた時、彼に『果てしなき敗北です』と言わせている。
そこにはカミュ自身が体験した生まれながらの敗北者のイメージが二重写しになっている。
パヌルー神父の説教ではペストのような災厄は神からの天罰として甘んじて受け入れよと力説させているが、リウーは懐疑的だ。
この小説にはヒーローは存在しない。
親友のタルーの死を看取り、リウーは妻を失いながらも、現実を真摯に見つめてベターと思われる道を模索することでしか不条理を乗り越えることはできないと感じる。
ウィルスが変異を続ける限りワクチンが開発できないのと同様そこには特効薬はない。
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