2020年08月06日
『ペスト』読後の残響
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登場人物1人1人のセリフと行動から、彼らの思想的タイプをパターン化して描き分けたカミュの巧妙な手腕を改めて知ることができる。
『ペスト』本文を読んでいる時には気が付かなかったいくつかの事柄も発見できるし、深読みにはNHKテキスト『アルベール・カミュ・ペスト』と並んで格好の解説書だろう。
ただしあくまでも読後にお薦めしたい一冊で、本書を先に読むことは、ある意味で読者に作品の印象をあらかじめ方向づけてしまうので、先ずは自分なりの読後感を味わうことが大切だと思う。
カミュの他の作品との繋がりも明確に見えてきて面白い。
例えば『ペスト』の前作になる『異邦人』に共通する表現として「泣くこと」の意味合いがある。
『異邦人』の主人公ムルソーは母が亡くなった時、泣かなかった。
その事実が後の裁判における人々からの非難の的になるが、一方『ペスト』では医師リウーも妻の訃報を受け取った時泣かなかった。
あるいは泣けなかったと言うべきだろうか。
そして傍らにいた母にも「泣かないでください」と言っている。
勿論この二つの小説の主人公のおかれた状況や感情的立場は異なっている。
しかし泣くことが悲しみを表現する最良の手段ではなく、むしろ場合によっては陳腐で安っぽい行為に陥ることをカミュは熟知していた。
それは作家としてだけではなく、若い頃から俳優や演出家として演劇活動に情熱を傾けていたカミュらしい。
『異邦人』冒頭の「きょう、ママンが死んだ」にはあっけらかんとしたドライな若者の感情が表現し尽くされているが、そこにはまた一抹のやるせなさとその日を迎えてしまった覚悟が隠されているのも事実だろう。
死刑に関してもリウーの友人タルーのプロフィールにその深い意味合いが含まれている。
彼は次席検事だった父が、とある裁判で1人の若者に死刑を求刑するのを目の当たりにして心を病み、家出して革命運動に加わるが、そこにも存在した処罰や死刑によって挫折した。
『異邦人』の最後はムルソーが死刑執行を独房で待つやりきれないシーンで終わっている。
彼ら2人を通して、不条理のひとつの典型としての死刑が示されている。
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