2021年05月31日
クレーメル&アルゲリッチ、両者の抑制を利かせたデュエットによるシューマン
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クレーメルとアルゲリッチのコンビでは、既にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ2曲を聴いていて、特に『クロイツェル』の急速楽章があまりにも戦闘的な印象が強く、懐の深い普遍的なベートーヴェンとは言えず、多少違和感があった。
このシューマンの2曲でも、それほど期待していなかったが、意外にも互いに抑制を利かせた慎重なデュエットで、なかなかに深みのある演奏に仕上がっている。
主導権を握っているのは当然クレーメルだろうが、ピアノとのアンサンブルは緊密で、合わせも上手い。
シューマンの室内楽は、時としてテクニック的に難解であっても、演奏効果を上げるのが難しい。
彼らの演奏は余裕のある技術と幅広い表現力で、緩徐楽章でも弛緩しない緊張感が保たれている。
わりあい有名な第1番は、最初から情熱をほとばしらせ気迫に満ちているが、そこにロマン派特有の慰めや憧れに似たものもある。
規模の大きい、完成度の点ではより高い第2番が特に素晴らしく、熱気を見せているものの、もっと多様性を打ち出した演奏だ。
ここからは、精神の弛緩や狂気などよりも、むしろ天才的な音楽家の孤独の叫びや訴え、感傷、気負いが、聴く者のハートに直接飛び込んでくる。
2人とも技巧的に抜群なのは言うまでもないが、それだけに頼らず、シューマンの本質をとらえながら、現代的なスタイルの演奏を成功させている。
中でも第2番ニ短調の第3楽章は、アルゲリッチの音量を最小限に抑えた静謐な伴奏に乗るクレーメルのソロが冴え渡っている。
ベートーヴェンやブラームスはヴァイオリンを、メロディーを歌わせる楽器と捉えていることは彼らの作風を見ても良く理解できる。
彼らの協奏曲やソナタを聴けば、如何にカンタービレを重要視していたかが納得できるが、シューマンの場合ヴァイオリンは言ってみれば考える楽器で、より内省的な趣がある。
華やかなテクニックを駆使したり、演奏効果を上げるための奏法が使われることは殆どない。
そのために彼の協奏曲やソナタは、一流どころの演奏家にとってもスタンダード・レパートリーとは言えないが、実際にはこれほど本来の意味でロマンティックな音楽も少ないのではないだろうか。
録音は1985年で音質は良好。
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