2021年07月30日
音のポエム、ダヴィッド・フレーの深い陰影が交錯するリリカルなシューベルト
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ダヴィッド・フレーはこれまでに2枚のシューベルトの作品をカップリングしたCDを出している。
カナダのアトマ・レーベルからリリースされた『さすらい人幻想曲』、そしてエラートからの『楽興の時』だが、彼は常にリリカルな感性を表出させることを試みている。
今回のソナタ第18番ト長調でも作曲家の歌心をウェットに捉え、豊かな音楽性を自由に羽ばたかせているようだ。
リヒテルの同曲を聴くと寂寥感が滲み出ているが、フレーのそれはそれはゆったりとしたテンポを取りながらも、天上的な長さを持つ第1楽章を深い陰影が交錯するような詩的な美学で弾いている。
また愛らしい小品『ハンガリー風メロディー』でもニュアンスの豊富さと、殆ど映像的でセンチメンタルな描写が美しい。
フレーは鍵盤への微妙なタッチによって反応する音色の変化に極めて敏感に、そして音色とアゴーギグの対比によって音楽自体を再構成していく。
ここでも丁寧に紡ぎ出すようなまろやかな音が、あたかも印象派の画家達によって描かれた、揺らめく木漏れ日や樹木のつくる陰影のように移り変わる。
言ってみればフレーの演奏はシューベルトの音楽の内部に彼自身が見いだした、時代を先取りした視覚的で、しかも密やかに語りかけるような音のポエムを生み出しているのだ。
こうした細やかな感性に溢れた表現は、いわゆる大曲をまとめるには不向きかも知れないが、シューベルトのように尽きることのない歌謡性とファンタジーに満たされた音楽にはとりわけ魅力的で、また心地よい安らぎを与えてくれる。
決してこじんまりとした表現ではなく、時にはオーケストラを髣髴とさせるようなスケールの大きさや輝かしさも欠いていない。
テンポの取り方はかなり柔軟で、既に聴き慣れた曲でさえも新しい音楽を聴くような新鮮な印象を残している。
後半ではフレーのパリ音楽院時代の師、ジャック・ルヴィエを迎えてシューベルトの4手のための作品2曲を演奏している。
曲目は幻想曲ヘ短調及びアレグロイ短調『人生の嵐』で、彼らの連弾には聞えよがしの強いアピールはないが、抑制されたインティメイトな雰囲気の中に変化にとんだタッチのテクニックを駆使して、シューベルトがサロンや家庭音楽会で求めたような、味わい深い音楽を引き出している。
低音部を受け持つルヴィエも流石に巧妙で、フレーの構想する作曲家の歌謡性や物語性を心地良くサポートしている。
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