2021年12月14日
幻のロシアン・ピアニズムの大御所、マリヤ・グリンベルクの芸術、もし西側で活躍していれば間違いなく最高の女流ピアニストの全貌(34枚組)
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ソヴィエト連邦が崩壊後、情報公開の波に乗ってさまざまなロシアの幻のピアニストの録音が紹介され、多くの素晴らしいピアニストたちの全貌が明らかになってきた。
1908年生まれで78年に没したマリア・グリンベルクもその一人で、もし西側で活躍していれば間違いなく最高の女流ピアニストに数えられていただろう。
ロシア帝国末期にオデッサに生まれたマリヤ・グリンベルクは、激動のロシア革命を生き抜き、レーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフ時代のソ連で過ごしたロシアン・ピアニズムの大御所。
しかし、彼女の一生は苦難の連続で、父や夫はソ連当局によって逮捕され死に追いやられる。
イギリスのスクリベンダム・レーベルから登場したボックスは、グリンベルクの重要な録音を集めたもので、ロシア物に強い同レーベルならではの凝った内容。
得意のベートーヴェン全集録音と別録音のほか、バッハ、スカルラッティからバルトークやルトスワフスキ、ヒンデミット、カバレフスキー、ロクシーン、ワインベルクなどの近現代作品に至る様々な時代の作品を収録。
スクリベンダム・ボックスのデザインは、グリンベルクの故郷オデッサをモチーフに美麗に仕上げたものだ。
ポチョムキン階段から船と鉄道を臨む視点は、オデッサの歴史を考えると意味深でもあり、外に向かって開かれたオデッサのイメージに、ポチョムキンの「赤い旗」、そして「グリンベルクの顔」の織り成す不思議な感覚が面白い。
ソ連随一と言われていたグリンベルクのベートーヴェン演奏は、ゲンリフ・ネイガウス[1888-1964]が絶賛していたほか、かのラザール・ベルマン[1930-2005]も教えを請いに来るほど見事なものであり、LPで全集セットを贈られたショスタコーヴィチも感激していたそうだ。
グリンベルクはもともとベートーヴェン演奏に適性があったようで、イグムノフに師事していた学生の頃にも『熱情ソナタ』第1楽章展開部の第2主題の扱いをめぐって師と激論を戦わせ、最終的にはイグムノフがグリンベルクの方法を認めることになるなど、そこにはすでに大きな説得力も備わっていたようだ。
そのグリンベルクが一気にベートーヴェンに開眼するきっかけになったのが、それから少し経った1935年、27歳の時に接したアルトゥール・シュナーベルのモスクワ公演だった。
シュナーベルのベートーヴェンに接して「私のなかのすべてがまたたく間に燃え上がったのてす」と語るグリンベルクは、それまでに習ったロマンティックなベートーヴェン演奏をリセットし、構築的で論理的なスタイルを強い集中力で実現するようになる。
数々の圧政の中で生き抜いてきたこのグリンベルクの弾くピアノは実に強靭で逞しく、そして慈愛に満ちた両面がある。
筆者が愛聴するシューマンの『交響的練習曲』で前者の、『子供の情景』で後者の豊かなファンタジーを聴かせている。
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