2022年01月21日
ヴァントの長いキャリアの頂点を示した名盤の待望のSACD化、高貴なシューベルト、豊麗なブルックナー
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Profilレーベルのヴァントの名盤がSACDハイブリッド化された。
Altusレーベルがライセンスし、このハイブリッド盤のための最新リマスタリングを施して製品化した。
シューベルトとブルックナー、ふたつの未完成交響曲を1日で演奏した1993年のライヴをそのまま収録しており、両曲共にヴァントの得意とした作品なので大変に聴きごたえがある。
先ず録音状態だが、1993年のライヴとしてはかなり良い状態でレコーディングされている。
ライヴといっても殆どセッションと変わらないくらい聴衆からのノイズは抑えられている。
従来のレギュラー・フォーマット盤では高音の角が取れて、やや丸みを帯びて聞こえ、音像も平面的に広がる傾向がある。
しかしマスターの状態が良好なので、特に高音質に拘るオーディオ・ファンでなければ充分高度な鑑賞にも堪えられる。
とはいえ聴き比べるとやはり高音の鮮烈な再生と音像の立体感、そして音量を上げても破綻がない点ではSACD盤が優っている。
シューベルトの『未完成』は精緻なアプローチがヴァントの身上だろう。
それだけに演奏に独特の品格があり、高貴な雰囲気を醸し出している。
弦楽とブラス・セクションのバランスが絶妙で、あらゆる意味での逸脱を避けた境地が窺えるが、豊かな歌心が横溢していて物足りなさは全く感じられない。
これはヴァントのひとつの至芸だろう。
恐ろしい低音が聴き手を一気に音楽へ引きずり込む第2楽章の楽器バランスの美しさもヴァントの独壇場だ。
一方ブルックナーの第9番はオーケストラから壮麗なサウンドを引き出し、ブラス・セクションには殆ど限界まで咆哮させる大技を繰り出しているが、ヴァントならではの統率があくまでも緻密な音楽表現の中に収めているのは流石だ。
完璧に整っていながらも熾烈・強烈な音響で、圧倒的な完成度でもって至高の音の大伽藍を築き上げている。
1980年代から90年代初頭にかけて客演したベルリン・ドイツ交響楽団とのライヴ録音には、ヴァントの解釈がとりわけ鮮烈に現れているといっていいだろう。
ヴァントの演奏解釈の本質は、一つひとつのパーツが全体を構成するための入念な設計にある。
テンポは速めで、決して流れを停滞させることなく、圧倒的な構成美を作り出す。
ベトついた感情表現などは無縁で、透き通るようなクリアさ、辛口の味わいが魅力だ。
こういった方向性に、ベルリン・ドイツ交響楽団はじつにフレキシブルに、過剰なまでの反応の良さで応えている。
異様なまでに密集度の高いサウンドだが、同時に適切なバランスで組み立てられている。
そこで生み出されるのは、驚異的といっていい立体感だ。
ヴァントは晩年になって、ようやく世界の楽壇から注目されるようになったが、このシューベルトとブルックナーも彼の長いキャリアの頂点を示した演奏のひとつだろう。
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