2022年01月23日

水晶のように硬く澄み切ったドラマティックにして知的なオペラ役者、ビルギット・ニルソン、ライヴ・ボックス集成


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もう長らく読んでいないレコード芸術誌だが、2021年度レコ芸アカデミー賞特別部門歴史的録音にブーレーズ&N響の《バイロイト引越/大阪1967》が輝いたことを知り冷静でいられなくなったので、いつもよりとりとめのない書き方になるのをお許しいただきたい。

ここで紹介するボックスは4年前ビルギット・ニルソンの生誕100周年に発売されたもので、熱狂的なニルソン・ファン目線で見ても収録内容のセレクトは、それなりに妥当で大体納得の行くものだ。

中でもニルソンの相手役としての「“3大ヘルデン”の〈トリスタン〉聴き比べ」は企画としても聴きごたえがある。

普段メジャー商業録音にしか接しないような聴き手には、無理が祟り深刻に声を痛めてしまう前、美声とパワーの両立を目指した万能ヘルデン・テノール、ジェス・トーマスの〈トリスタン〉を再評価する良い機会にもなると思う。

しかし、ヴィッカーズ+ニルソンの場合、映像版であればこそ独自の価値もあった本セットのオランジュ・ライヴに限らず他にも複数種存在するホルスト・シュタインやラインスドルフ指揮の選択肢もある。

プリマドンナを立てるサポート上手で互いに一番ウマが合ったヴィントガッセン+ニルソンの中から選ぶなら、生粋のワーグナー指揮者なのにキャリアを通して何故か《トリスタン》だけは芳しくなかったサヴァリッシュの《バイロイト1957》の代わりに、ニルソン=ベーム・トリスタンのベストと考えている《バイロイト1964》か、あるいはブーレーズ&N響も“聴き物”の《バイロイト引越/大阪1967》を、また、《サロメ》も幕切れのニルソンの超人的歌唱で選んで、収録のベーム《メト1962》より実を取って、商業録音での知名度など関係なく同郷同世代のショルティに比べ遥かに現場経験豊富な「腕利きワグネリアン/シュトラウシアン」だったジョルジュ・セバスティアン指揮《ブエノスアイレス・テアトロコロン1965》のほうが良かったのではないか。

さらに、メト・ライヴにしたってニルソンのパワーもピーク期60年代で指揮も元気なシッパースの素晴らしい《エレクトラ》もあったのに。

本BOXのコンセプトは大前提としてニルソン・トリビュートで歌手陣の出来を第一義とすべきものを、リマスタリングの方向性も含め妥協の産物というかビギナー向きな配慮というか、パフォーマンスの実質より“カタログ映え”する「スター指揮者のネームヴァリュー優先」といった安直で不誠実なマーケティングの“ウケ狙い”にちょっと走り過ぎてはしないだろうか。

などと内容に踏み込んであれこれ考え始めると際限なく結局延々と恨み節になってしまうが、思いつくまま取り留めなく上に書いたようなことも、再生機器を調整したり新しい音質に耳が慣れてしまうかも知れない。

いずれにしても、子供だった筆者が心ときめかせながらオペラに目覚めた頃、キャリア末期とは言えまだ現役だったニルソンの生誕100周年をこうして迎えるのは…色んな意味で感慨深い。

ニルソン級のパフォーマンスが完全消滅した今日、また、そういうBest of Bestsの誰もが知る一握りのスーパースターに限らず、劇場では名実共に大成功を収めながら商業録音に縁がなかったというだけで不当に過小評価され今では歴史に埋もれるがまま忘れられつつある偉大な歌手たち、さらに、致命的に人材不足の現在ならば各地の主要劇場からオファー殺到でスター待遇が当然であろうような才能豊かな中堅実力者たち…。

そういった次々と現れては消えていった有名無名の大勢の名歌手たちに支えられ繁栄が長く続いた黄金期にはむしろそれがスタンダードだった所謂「Great Singing」は急速に衰退し、その右肩下がりに歯止めも掛からず、オペラは音楽的に低迷してマンネリなシロモノになり果て、今日の上演において洞察や批評精神、創造性の“最後の砦”として気を吐いてきた演出の領域も行き詰まりを見せ始め、それでもどうにか小手先のマーケティングで無理無理体裁を保っている。

そんな時代(他にも多様で豊かだった古き佳き物事が消え去り異質で違和感あるものにどんどん“上書き”されて行く時代)に巡り合わせた世代には申し訳ないけれど、この分野に関しては自分は多少は運が良かったのかなとも思う。

都合よく美化されたノスタルジックな想い出云々の話でなく、今と違って「正真正銘の名歌手」就中「本物のドラマティック・ソプラノたち」が本気で歌うオペラ・ライヴは、商業録音を上質なオーディオを駆使していくら聴いたところで決して代替しえない人生を揺るがす“衝撃と畏怖”の物凄い体験で、幼く無知な聴き手に過ぎなかったとは言え、オペラ後進国である極東の一角に居ながら、そういう水準のオペラ公演が滅びる前に実際にこの目でチラッと垣間見ることが出来たのは本当に幸いだった。

所詮、貧弱音質で真価のごく一部しか伝わらないにせよ、このBOXには「人類から失われた偉大さ」がぎっしり詰まっている。

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classicalmusic at 20:41コメント(0)ベーム | ワーグナー 

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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