2022年03月16日

万人向きの一般教養書としての価値が高いテキスト、旧約聖書のルーツとストーリーに隠された史実


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本書はラジオ放送用の講義を纏めたもので、2018年の4月から9月に放送された部分がテキストの上巻として出版された。

勿論クリスチャンに限定された読本ではなく、それ以外の宗教を信仰している人、あるいは全く信仰する宗教のない人にとっても興味深く読める一般教養書としての価値が高い。

39書のヘブライ語による旧約聖書にはそれが成り立つ以前の時代の人々の宗教観や彼らが暮らしていた地方の慣習などが色濃く反映されていて、それだけに字面だけで解釈することには無理があるし、今もって解き明かされていない謎めいたストーリーの展開も少なくない。

著者は古代の資料に基いた理路整然とした考察でむやみな帰結を避け、聖書が沈黙している部分にも多様な解釈の可能性を認めながら、数々の教義的逸話に説得力のある見解を示しているところが秀逸。

先ず神の手になる世界の創造が記された創世記にかなりの比重が置かれている。

そこでは創造主と人間、そして人間と自然の関係が問われていて、自然や他のあらゆる動物達を支配する側と逆に自然に従うべき存在としての相対する人間の立場が読み取れる。

この矛盾は神とは違う人という存在自体が抱えている宿命なのかも知れない。

名詞のエティモロジーを簡潔に示した説明も理解を深めてくれる。

例えば大地の塵から創られた最初の人間アダムはヘブライ語のアダマー(大地)に由来しているようだ。

エデンの園で禁断の果実を蛇にそそのかされて最初に食べるのは女性のエバだが、アダムが神から問いただされた時、彼がエバに責任転嫁するところも象徴的だ。

旧約に登場する人物にはこの2人を始めとしてカイン、ノア、アブラハム、ヤコブやダビデなど、誰一人としてキリストのような完璧な者はいない。

そればかりか彼らイスラエル人の先祖の不完全性を臆面もなく暴いている。

最初の夫婦となったアダムとエバの子、カインによる弟アベルの殺害は2人が神に捧げた供物、つまりカインの農作物ではなくアベルの子羊を神が好んだことによる嫉妬から起きた事件だが、聖書には神が子羊を選んだ理由が書かれていない。

著者はこれを定住民族と遊牧民の比較で捉えている。

それはその後の旧約に綴られるイスラエルの王の系譜が羊飼いなどの流浪をイメージさせる民族だからで、良い牧草を求めて移動を繰り返す彼らはある特定の場所に定住することは全く念頭にない。

そこに大地は神の所有であり、人はそれを一時的に借りて生きているのであって所有者ではないという意味合いが取れる。

新約の時代に移ってからもキリストが降誕したのは旅先の家畜小屋で、先ず最初に祝福にやって来るのも牧夫達だ。

創造を逞しくすれば現在までのユダヤ民族の永遠に定住先を得ることができない放浪の宿命を暗示しているとも考えられる。

バビロンの遺跡から発見された巨塔ジックラトゥが大都市文明と中央集権国家の驕りの象徴でもあり、諸民族の強制的な統一をも意味しているところから、聖書のバベルの塔譚では逆に神によって言葉を乱された人々は八方に散逸して諸国民になるという旧約の喩えも納得のいくものだ。

ノアの箱舟の逸話も古いメソポタミア伝承をベースにイスラエル民族によってリメイクされたものであることが理解できるが、神による世界のリセットという作業は人類の堕落からもたらされるカタストロフィの浄化であり、それが新約での最後の審判に繰り返されているのではないだろうか。

また食事を共にするという行為が彼らの慣習だった契約確認のための象徴的儀式だったことも興味深い。

これも後のイエスと十二使徒の最後の晩餐やエマオの晩餐に再現されている。

尚この講座の上巻はイスラエル十二部族の祖ヤコブの息子ヨセフと兄弟達の感動的な和解で終わる。

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classicalmusic at 15:05コメント(0)書物  

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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