2022年03月18日

やや難解だが名著の名に恥じない『正統と異端』


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この歴史的著作はアッシジのフランシスとローマ法王イノセント3世の会見で始められ、最終章で再びこの2人の出会いの場面に戻って閉じられている。

それだけにこの機会が著者堀米氏の研究テーマであったカトリック教会の正統と異端のせめぎあいを象徴する事件として描き出されている。

ここで言う正統と異端には私達の通常のイメージを一新するほどかなり異なった実情があったことが明らかにされている。

著者は正統とは宗教的客観主義であり、異端は主観主義であると定義している。

平たく言えばカトリック教会では聖書に権威による解釈というクッションを置いて布教に努めるが、異端はより近視眼的に聖書に書かれた通りの生活を人々に強要し、それ以外の行為を認めない。

しかし実際には世捨て人にでもならない限りその実行は不可能で、教会側としてはいくら聖書に忠実であっても教会の権威や社会構造を根本的に揺るがしかねない主観主義は退けた。

しかしながら時の権力者と常にギブアンドテイクの関係で繁栄を享受してきた教会内部には腐敗が蔓延っていたことも厳然とした事実だったために、グレゴリウス改革を頂点とした異端追放と同時に彼らとの折り合いを見出さなければならず、その一大軌道修正であり、歴史的決断が法王イノセントと異端である筈のフランシスへの布教の承認だったと言えるだろう。

カトリック教会が常に世俗の権力と離れ難く結び付いていたことは王権神授を実行してみせたカール大帝以来紛れもない事実だが、それにはまた権力側からの教会への土地の寄進や財産の喜捨も大きく影響している。

これについて阿部謹也氏が何冊かの中世シリーズで述べているのは、伝統的なゲルマンの主従関係を支えていた贈答関係を、教会は来世を保証する精神的な担保に巧妙にすり替えることに成功したとしているが、ここではまた修道院への土地の寄進は、国王や豪族達が最も効果的な一種の投資として行っていたことも理解できる。

何故なら農業生産向上を支えた技術の進歩は修道院からおこり、人が唯一学業に専念できる文化の中心でもあったからだ。

つまり世俗からの教会への寄進、喜捨はひとつの重要な政治的ストラテジーという解釈にも説得力がある。

こうした事実からも教会は世俗との縁を切ることは不可能だった。

一方この著作の佳境は第4章『グレゴリウス改革と秘蹟論争』の部分で、堀米氏はカノッサの屈辱の立役者グレゴリウス7世による、教会からの堕落した聖職者の徹底追放に至るまでに、こうした動向がカトリック教会内部で進み、それが着実に準備されていたことを詳細に説明している。

それは厳格な宗教観を持っていた神聖ローマ帝国皇帝ハインリヒ3世下のローマ法王レオ世に始まる。

しかしこの急進的改革は伝統的なアウグスティヌス、グレゴリウス一世の客観路線を踏み外すことになる。

第5章以降ではカタリ派やワルド派などの異端が生まれた必然性と、それらがこうした動向に連動した背景が解説されている。

1184年のヴェロナ公会議では教会の明示付託によらない一切の説教や秘蹟論への批判は異端と決定し、正式な異端審問が制度化された。

これによって惹き起こされた正統と異端の妥協の余地のない対立、教会分裂の危機をイノセント三世は驚異的な洞察力と、寛大と慎重さを持って彼らの一部を吸収することで巧みに回避することになる。

先ずフミリアーティに、そしてワルドには条件付和解という形で承認を与えるが、その最後の試みであり総仕上げがフランシスを取り込むことだったようだ。

それは決して映画で再現されたようなフランシスの福音書への忠誠や清貧への情熱だけから認可されたものではなく、イノセントによって綿密に青写真化されたポリシーに基くものとしている。

しかし堀米氏はイノセント自身、フランシスコ修道会がカトリック教会の屋台骨になるような大組織に成長するとは夢想だにしていなかっただろうと書いている。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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