2022年04月26日

沓掛氏のプロフェッショナルな訳業に感服、エラスムス『痴愚神礼讃』


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デクラマティオーの様式に則って、愚民の楽園と化した現世を痴愚女神モーリアがスコラ神学者の不毛な論争や王侯貴族達の生き様を鋭い風刺と揶揄を開陳しながら次々と痛快にこき下ろしていくが、その鉾先は高位聖職者やローマ教皇にまで及ぶ。

この作品が出版されたのが1511年だから、その6年後にヴィッテンブルクで掲げられたルターのカトリック教会に対する95箇条の提題がエラスムスに触発されたことは想像に難くない。

その意味でも当時としては画期的で斬新な創作だったに違いない。しかしルターの思惑に反して彼は宗教革命を望まなかった。

随所に挿入されているハンス・ホルバインの挿絵は現代人から見てもひょうきんな味わいがあり、この作品の胡散臭さを醸し出している。

ホルバインはイギリス国王ヘンリー8世の肖像でも知られた宮廷画家だが、エラスムスの肖像画も残している。

エラスムスはオランダが生んだ文学者であり、また神学者でもあったが日本では彼の名やその著作は同時代のトマス・モアやマキャベリあるいは少し後のシェークスピアなどに比べて知名度は低い。

訳者沓掛氏によれば、それは彼が生涯に亘ってラテン語で書き続けたためで、その後死語になった言語は市民に溶け込む機会を失ってしまったようだ。

確かにダンテは早くからイタリア語で『神曲』を書いていたし、シェークスピアが盛んに上演されるのは庶民にも理解できる英語だったからだろう。

当時ヨーロッパでの教養人の共通語はまだラテン語だったが、格調は高いかもしれないが込み入った文法を持ったラテン語より、一般人には当然話し言葉として地方に定着した言語を好んだ。

それゆえエラスムスを読むには原典を一度翻訳する作業が不可欠になり、取っつきにくい理由になっていることは疑いない。

沓掛氏が原典訳を決心した経緯が訳者あとがきに詳しい。

大学で『痴愚神礼讃』を講義するに当たって、当時唯一のラテン語原典訳だった大出晃訳出の同書を参考までに調べると、荒唐無稽な誤訳が露呈されていて、古典に関する知識も疑われるような無残な状態だったと書いている。

その後誰も原典訳に取り組まないので自らこの難役を買って出て、作品の誤解を解くことに余生を懸けたようだ。

それだけに沓掛訳は日本語としても非常に流暢で平易に訳されている。

筆者は以前彼の『ホメーロスの諸神讃歌』を読んで訳業に対するプロフェッショナルな姿勢に感服したが、この『痴愚神礼讃』も周到な準備のもとに訳出された作品であることが理解できる。

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classicalmusic at 14:28コメント(0)書物  

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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