2022年05月19日
中世に形成されたヨーロッパでの新しい人間関係、『中世の窓から』阿部 謹也 (著)
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著者阿部氏によれば、ドイツを中心とするヨーロッパでの人と人との、そして人と物との新しい関わり方は、集落が都市として発展し始める中世時代に端を発している。
農村地帯とは切り離されて城塞によって取り囲まれた都市は、それまでの人同士の関係を必然的に変化させていく。
最初に例を挙げているのが都市の最小単位になる住居で、その集合体である街は社会的共同体を形成するので当然安全で円滑な社会を維持するために新しい法律が必要になり、結果的に都市住民は既得権益維持のために余所者を排除しようとする差別も表面化してくる。
また貯蓄や分配が容易く、商業活動に圧倒的に有利な貨幣の価値がそれまでの物に代わって貨幣経済が成立するが、また一方で貧富の差を拡大させたことも理解できる。
阿部氏はユダヤ人への差別が決定的になったのは、ヨーロッパの人々が古いタイプの人と物との関係をまだ手放せないでいる時、彼らが逸早く貨幣価値を認識し蓄財に成功したことへの反発としている。
カトリック教会は喜捨や寄進を奨励し、死後の世界を保証するという元手のかからない莫大な富の貯蓄が可能になり、大聖堂の建築が始まる。
それは以前の奉仕に対する贈答という主従関係を根本的に変えることになるが、大規模な教会建築にはヨーロッパ中の高い建築技術を持った専門職人が必要になり、国境を超えた文化や芸術の伝播が始まるのも貨幣経済の優位があって可能になったようだ。
それだけに中世には職人の専門技術の向上と、その洗練が着実に進んでいた。
こうしたヨーロッパの大都市での人々の生活に、著者が現代社会の萌芽を見ているのは興味深いし、文化も技術も停滞して社会的な発展が途絶えた暗黒の中世では決してなかったことが理解できる。
むしろ現代の我々の人間関係の仕組みを良く知り、またそれを活かすためには、意外にも中世時代の価値観の変化を見極める必要があるだろう。
随所にイラストを掲載してイメージを助けてくれるので、中世の世界をバーチャルに体験できるが、そこには私達が抱いている中世に対する印象からは随分違ったものが見えてくる。
むしろ難解なのはこの時代に生きていた人々のスピリットをつぶさに理解することだろう。
それにはより深い読書が求められるし、勿論これ一冊では充分とは言えない。
幸い阿部氏の中世シリーズの作品集は次々と文庫本化され、具体的なテーマによって詳述されているので、中世に興味のある方はてはじめに本書を読まれることをお薦めしたい。
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