2022年05月28日

中世への理解を深めるために、阿部 謹也 (著)『中世を旅する人びと』―ヨーロッパ庶民生活点描


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この著書で阿部氏は中世の特徴的な幾つかの職業について詳述しながら、庶民のありのままの姿の再構築を試み、その人間性の源流を探っている。

それは通常の歴史書では触れられることなく通過してしまう部分だけに貴重だ。

特にドイツの職人の遍歴制度はこの時代に法律化されたユニークなもののひとつだろう。

親方に弟子入りした職人は修行の仕上げのために他の土地へ赴いて働くことが義務付けられた。

それは外部の世界で自身の技術を練磨し、より広い視野での職業経験が可能になり、結果的にドイツの手工業や工芸、建築技術などの水準を高めることになる。

しかし著者は本来この制度の目的は、小さな町での職人のインフレに歯止めを掛ける手段であったと述べている。

親方になれる人数は限られていて、実質的に世襲制で昇格するために親方になれない職人は他の町での可能性を探すことが要求されたわけだ。

ただし同職組合のメンバーである限り、行く先々の町でも最低限の宿と食事及び路銀が保証されたとある。

ある父親が数年の遍歴に旅立つ十代の息子に寄せた忠告は、自分の若い頃の遍歴経験から学んだ極意が示されていて興味深い。

この遍歴職人の逸話に関連させて最後の項ではティル・オイレンシュピーゲルの悪戯話についてその由来や編纂などのいきさつ、そして物語の解釈に欠かせない知識が幾つかの例を上げて説明されている。

遍歴の途中で起こる親方とティルの笑話集は当時の制度や権威に対する鋭い風刺であり、時代を反映している事象を解明しなければ面白みが半減してしまう。

著者の訳になる同名作品を理解するためにも読んでおきたい部分だ。

一方農民は三圃農制や粉挽き強制など、がんじがらめの制度によって領主から搾取されていたことが明らかにされている。

定められた農地で収穫した穀物は指定された粉挽き所で料金を支払って製粉しなければならず、パンを焼くには専門の職人を呼んで手間賃を現物で支給したとある。

この間にも農民は粉挽きやパン焼き職人に預ける穀物や小麦粉を掠め取られないように常に監視の目を光らせていなければならなかった。

ここでは農民戦争を勃発させた下層民締め付けの構図が良く理解できる。

「ジプシーと放浪者の世界」の章では、インドに源泉を遡るとされているジプシーへの考察が試みられている。

彼らは15世紀にはヨーロッパ全域に現れるが、元来ひとつの土地に定住できない彼らの人生観や哲学は、当然長い間定住者との間に軋轢を生み出してきた。

賤民以下という烙印を押され、虐待され続けてきたジプシー達に向ける著者の眼差しは非常に人道的だ。

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classicalmusic at 12:37コメント(0)書物  

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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