2022年05月15日

絵解きの秘伝書、パノフスキーのイコノロジー研究〈下〉


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下巻は文庫本としての便宜的な配慮から分けられた部分なので、上巻の後半で始まったネオ・プラトニズムの観念について引き続き詳しい解説がされている。

フィレンツェ・メディチ家のサークル、プラトン・アカデミーでは、本来のプラトンの哲学とキリスト教神学の要素を一体化する必要から、その整合性への試みとして2人のアプロディーテ(ウェヌス)と2人のエロス(アモルあるいはクピド)を生み出すことになる。

つまり瞑想的な至高の愛と、より低次元の物質的な愛の具現で、ティツィアーノはこれを『聖愛と俗愛』で独自の解釈を示した。

パノフスキーはここに描かれた2人を「双子のウェヌス」の対立ではなく、知的な美と視覚的な美の調和と解いている。

現世的な欲望を捨て去った姿としての裸体表現はミケランジェロの作品でも常套的に使われているのは明らかだ。

少年時代にロレンツォ・マニフィコにその才能を見出されてから、メディチ家の一員としての待遇を受け、彼らと食住を共にしたミケランジェロであれば、彼が如何にネオ・プラトニズムの影響下に育ったか想像に難くない。

しかしプラトンの言うイデアの世界が不可視であるがゆえに、その想起にまた彼ほど限りなく近付こうと苦闘した人も稀だろう。

下巻の後半部分はミケランジェロの哲学とその作品についてパノフスキーの詳しい考察が開陳されている。

フィレンツェ聖ロレンツォ教会のメディチ家礼拝堂のイコノロジー的な解釈は彼の面目躍如たる部分で、ロレンツォとジュリアーノのためにミケランジェロが製作した4体の像『朝』『昼』『夕』『夜』がそれぞれ冥界を流れる四つの河、つまりアケロン、フレゲトン、ステュクス、コキュトスに一致し、更にそのひとつひとつが中世の四大元素、大気、火、土及び水を表し、それを「多血質、春」「胆汁質、夏」「憂鬱質、秋」「粘液質、冬」に該当させている。

そしてロレンツォの像を瞑想を表すサトゥルヌスに、ジュリアーノを行動を示すユピテルに見立てている。

そう考えるとこれはもはや2人の公爵の墓というより、ミケランジェロ自身の哲学堂のようなものでだ。

彼が同じような構想で創る筈だったローマのユリウス二世墓廟が再三の計画変更を余儀なくされ、彼の手で完成しなかったのは芸術的な損失だったというべきだろう。

最後にパノフスキーはこの著書を終えるに当たって「天才たちの象徴的な創造物というものは、遺憾ながら、二流の芸術家たちの寓意的な作品に比べその主題を釘付けにすることは難しい」と結んでる。

この言葉にはミケランジェロのような人物の作品から、その一種近付き難い高邁な精神を感じ取り、それを哲学的、あるいは芸術的に解釈することが決して容易でないという率直な気持ちが滲み出ている。

何故ならそれは理論というものを遥かに超えた、本人自身にしか理解することができないような独自の信仰があったからに違いない。

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classicalmusic at 14:35コメント(0)書物 | 芸術に寄す 

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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