2022年05月18日

『サウンド・オブ・ミュージック トラップ一家の物語』家族の愛と尊厳、ゼロからの再出発、激動の時代にあって、彼らは常に前向きに考え、行動した❣


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映画はほとんどの方がご存知だろうが、この本は主人公マリアとフォン・トラップ・ファミリーの自叙伝に当たる。

前半はオーストリアを中心としたヨーロッパでの体験談とアメリカ亡命前夜までが記されている。

渡米以降の家族の生活については続編になるもう一冊に収められている。

谷口由美子氏の訳は常に平明で文面にマリアの敬虔だが、機知に富んだ明るく積極的な人柄が滲み出ている。

また専門用語については注釈が見開きごとに設けられ、読者が読んでいるページですぐに理解できるように工夫されているのも特徴だ。

ここでは修道院で慎ましく生涯を過ごすことに何の疑問も持っていなかったマリアが、トラップ男爵の7人の子供達の家庭教師から男爵夫人となり金融恐慌による破産、男爵の反ナチ思想からの苦悩と亡命に至る不穏な出来事が回想される。

そうした時期を通じて、彼らのささやかな楽しみだった趣味のファミリー・コーラスがヴァスナー神父と名歌手ロッテ・レーマンの協力を得た。

そして奇しくもザルツブルク音楽祭で優勝してからはプロの合唱団として全ヨーロッパでの演奏活動を始める事になる。

またオーストリアのクリスマスや復活祭、そして夏のバカンスなどの歳時記についても詳しく描写されていて、当時の彼らの生活を余すところなく伝えている。

最後の章で男爵は軍人としてドイツに貢献することを拒み、家族も全員一致でヒットラーの前で歌わない決意をする。

危険を冒してさえも自分達の尊厳を貫くことを選んだ固い意志が、その後の彼らの運命を方向付けることになったのだ。

後半では10人の子供達とアメリカでのゼロからの再出発と成功を勝ち得るまでの家族の奮闘がマリア特有のユーモアを交えて綴られている。

フォン・トラップ・ファミリーの前には氷山のような障害も少しずつ溶け去っていく。

激動の時代にあって、彼らは常に前向きに考え、行動した。

いやむしろ体当たり的に生きざるを得なかったというべきだろうか。

しかし稀にみる家族の結束と行動力によって降りかかる難関を次々に切り抜けていくストーリーには興味が尽きない。

家族合唱団を結成して以来、精神的にも、また経済的にも彼らを常に支えたものは彼ら自身のコーラスだった。

トラップ家の絆は音楽によって強く結ばれ、彼らの歌が多くの人々の心を惹きつけ、行動に移した。

アメリカの入国管理の検閲に引っかかり、難民抑留所に何日も軟禁状態になったり、客の入らない演奏会が続いて興行主に契約を打ち切られたり、波乱に満ちた日々の生活の中でも彼らは果敢に歌い続けた。

ここには映画に描かれた美しくロマンティックなエピソードだけではない、彼らの真実の人生が正直に記録されている。

終わりに近い『手紙』の章はそれまで決して弱音を吐かなかったマリアが、常に苦労を共にし励ましてくれた夫、ゲオルク・フォン・トラップ男爵の病に蝕まれていく姿に狼狽し、困惑する。

全編の中で唯一彼女の悲痛な心情が吐露され、彼の臨終に際しては女性らしい暖かで細やかな思いやりがひときわ美しい。

余談ながら次男ヴェルナーの4人の孫が現在でもザ・フォン・トラップ・チルドレンとしてモダンだが繊細で美しいコーラスを世界中で披露している。

曾祖母マリア以来のトラディションが見事に受け継がれているのだ。

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classicalmusic at 17:53コメント(0)書物 | 芸術に寄す 

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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