2022年08月11日
海洋民族が辿った数奇な運命『興亡の世界史 通商国家カルタゴ』
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2009年に講談社から初版が刊行されたときには定価が2300円で、既に単行本の方は絶版になってしまったこともあり今回の文庫本化は歓迎したい。
ただし掲載されている写真や図版に関しては、やや矮小化されたという印象だ。
この著書ではカルタゴが国家として誕生する以前のフェニキア都市国家時代からの歴史を詳述して、一般的な通史では知ることが困難だった古代地中海史の実情を明らかにしている点で非情に興味深い。
また3回の戦役で勝利したローマの歴史家によって美化された戦史を鵜呑みにすることなく、カルタゴ側の内情にも深く食い入っているところが秀逸。
古来からフェニキア人達は筋金入りの海洋民族であり、徹底した商人気質に恵まれた民族であったことが本書で理解できる。
それを端的に示した逸話が本文中に紹介されている。
祖国フェニキアのテュロスを追われた王女エリッサ一行がアフリカ北岸に上陸した時、現地人に『私達に牛の皮一頭分だけが覆う土地を与えて下さい』と懇願し、土地の人は『そんな僅かなことであれば・・・』と快く承諾する。
ところがフェニキア人達は牛の皮を取り出すと、それを細かく切り刻んで細長い紐にして、港の上の丘ひとつを囲んで占領してしまう。
たとえ伝説であったとしても彼らの機転と抜け目のない狡猾さを物語っているエピソードだ。
こうした独自の商才と海運力で大繁栄を遂げたカルタゴは、2回のポエニ戦争でローマへの莫大な負債を抱えながらも、そのたびに不死鳥の如く甦った。
大カトーがローマの元老院でのあらゆる弁論の後の締めくくりに執拗に繰り返した『さて、思うにカルタゴ滅ぼされるべし』のセリフは、近距離にある豊かで強大な勢力を持ったカルタゴへの懸念を如実に表した名言だ。
しかし最後の戦いでスキピオに投降したカルタゴの将軍ハスドゥルバルに向かって彼の妻が『 ローマ人達よ、汝らは勝者の権を持ってこれをなすのであり、神々もお怒りにならないであろう。
しかしそのハスドゥルバルには祖国と神殿とこの私と子供達を裏切ったその者には、カルタゴの神々が復讐されんことを。
汝らはその道具とされんことを』と言い放って子供達を殺し、自らも命を絶つさまは感動的であり、また永久に消え去ったこの国家の数奇な運命を象徴している。
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