2022年05月22日

ローマ史入門に最適な解説と構成、文庫版『地中海世界とローマ帝国』


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



題名の通り、ローマが歴史に登場する前の地中海世界に勃興した国々の覇権争いの状況が最初の二章に説明されていて、世界帝国への原像が示されているのがローマ成立への理解を助けてくれる。

また本書の半分以上がローマ王政から共和制までの時代に費やされているのも特長だが、初代ロムルス以降6人の王が治めた頃の文書としての記録は皆無なので、後の文人達が伝承や伝説から書き起こした物を資料にせざるを得ない。

しかし著者本村氏はこうした伝承は根も葉もない作り話ではなく、その中に真実の核が存在するという立場をとっている。

紀元前509年から始まる共和制時代になると次第にローマの姿が明瞭に現れてくる。

王制による独裁制を徹底して嫌った彼らはギリシャに使節を送って法律を学び、選挙で選ばれた執政官(本書では統領と訳している)二人が任期一年のみで共同統治するという独自の共和体制を作り上げる。

これを著者は共和制ファシズムと呼んでいる。

そこではまたローマ人の父祖の遺風、つまり神々を畏敬し、そして何よりも先人の英雄的あるいは道徳的な名誉が後に続く者の手本であり、その目的は利益や享楽に走るためではなく、ローマ人全体がこの世を最良に生きるための拠り所であったとしている。

そうした気風を考えればグラッスス兄弟のラディカルな政治改革にも理解が深まるだろう。

本書冒頭に引用されている宿敵カルタゴを滅ぼしたスキピオ=アエミリアヌスの言葉もそう考えると一層奥が深い。

炎上するカルタゴを目の前にしてスキピオの脳裏にホメロスの一節がよぎった。

そしてローマにもいつか必ず滅びる日が来る、と涙したという。

カルタゴの歴史とポエニ戦争に関しては同興亡の世界史シリーズの『通商国家カルタゴ』に更に詳しい。

ローマは少なくとも千二百年に亘ってその国体を保った。

その秘訣のひとつに彼らが敗戦や失敗から常に学んでいたことと、異なる文化を持った異民族の宗教や慣習に寛容だったことが挙げられている。

また他の民族から優れた文化やあらゆるテクノロジーを取り入れた。

それらは私達の将来にとっても重要な示唆を与えているように思える。ここでも著者は丸山真男の『ローマ帝国の歴史には人類の経験の総てがつまっている』という言葉を紹介している。

長大なローマ史を400ページ足らずの本で語り尽くすことはできないが、本書はさまざまな視点から考察した多くの著書の中でも、入門者にとって最も分かり易く有意義な一冊としてお薦めしたい。

尚巻末に索引、主要人物略伝及び年表が掲載されているのも親切な配慮だ。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 04:02コメント(0)書物  

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ