2022年05月18日
死を間近に感じたショスタコーヴィチ自身の遺言、苦悩に満ちた心情を反映するかのように暗く重い《ミケランジェロ組曲》
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《ミケランジェロの詩による組曲》は、ショスタコーヴィチの死の前年の傑作ながら、現役盤が少ない作品である。
この作品(以下『ミケランジェロ組曲』)は、そのミケランジェロの11の詩に、ショスタコーヴィチが、作曲した、男声独唱とオーケストラのための声楽組曲である。
ミケランジェロの詩11篇に付曲した音楽は、ショスタコの苦悩に満ちた心情を反映するかのように、暗く重い。
バスのポルスターが力強く艶のある声、テンションの高いオケ、壮絶な演奏だ。
この作品(『ミケランジェロ組曲』)は、ヴァイオリン協奏曲第1番や交響曲第14番と並ぶ、ショスタコーヴィチの最高傑作の一つである。
それにも関わらず、この作品が、交響曲第14番と同様、演奏会で取り上げられる事が極めて稀である。
まだネット配信が普及していない頃、CDも殆どないという時代に、筆者は本盤を持っているのにも関わらず、長らく謎のまま放置していた。
ルネサンス美術の巨匠、ミケランジェロは、同時に、優れた詩人でもあった。
あのシスティナ礼拝堂の『最後の審判』やダヴィデ像、ピエタ像の彫刻で有名なルネサンスの芸術家が書いた詩に付曲したものである。
芸術や愛、そして憤りなどを詩情豊かに綴ったダンテ風の詩なのだが、音楽は無駄がなく、切羽詰まった心情吐露を聴くごとく暗く重い(全11曲)。
この曲を聴くと、ミケランジェロの詩の深さと、それらの詩にショスタコーヴィチが抱いた深い共感に打たれずにはいられない。
中でも、「創造」(第8曲)、「死」(第10曲)、「不滅」(第11曲)の3曲の精神的深さは、殆ど形而上学的だ。
その最後の曲(「不滅」)の中で、死を迎えた詩人が、「だが、私は、生きている」と歌う一節には、何度聴いても感動を覚えずにはいられない。
この言葉は、死を間近に感じたショスタコーヴィチ自身の遺言だったのではないだろうか?
この作品に使れているミケランジェロの詩の選択には、ショスタコーヴィチのメッセージが込められている。
そこには、明らかに体制批判的なメッセージがあるようだが、そんな事は、大した事柄ではない。
筆者が打たれるのは、むしろ、こうしたショスタコーヴィチの死への思いである。
このディスクは、ミケランジェロの詩をドイツ語訳で歌うヴァージョンである。
それが、ドイツ語の深さ、美しさと相俟って、ショスタコーヴィチの音楽の素晴らしさを際立たせている事が、深く印象的である。
ショスタコーヴィチが託した晩年の心境を読み解いていくかのような感興を覚えさせる名盤であるが、繰り返し聴くのにはちょっとつらい歌曲だ。
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