2022年05月20日

生きづらさを感じている全人類へ!20世紀を振り返る絶好のチャンスを与えてくれる、まさに哲学的な内容をもったボロディン弦楽四重奏団のショスタコーヴィチ全集


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)の15曲の弦楽四重奏曲は、数の面からだけでなく、音楽の質や内容の点でも、彼の15曲の交響曲に並ぶ位置を占めている。

初心者のために敢えて言っておくが、日本の絶滅した音楽評論家の誤解と迷信による解説は一切参考にしないでほしい。

いずれにしても難解なことに疑いの余地はないので、手引きとして参考にしていただければ幸甚である。

筆者が参考にした解説は旧東ドイツの女流音楽学者ジーグリド・ネーフ博士(Siegrid Neef)の筆によるものである。

ボロディン弦楽四重奏団の演奏そのものは、1980年代前半のものがほとんどで、それ以前のものも含まれているが、いずれにしても、まだ旧ソ連が立派に存在していた時代のものである。

しかし解説は、年代は明記されていないが、その内容からボロディン弦楽四重奏団の全集の後に執筆されたものであることが、その内容から明白である。

ネーフは1985年に東ベルリンで出版された「ロシア・ソヴィエト・オペラ・ハンドブック」という大部で、便利な本の著者として広く知られていた。

彼女はベルリン国立歌劇場の文芸部員を長年勤めて、19世紀ロシアだけでなく、ソ連の作曲家オペラを数多く手がけてきた。

一方、本格的な音楽学者でもあり、東ドイツきってのソ連音楽通の一人といって良いだろう。

それだけに、ソ連時代の矛盾を自ら実感してきた経験を持ち、ショスタコーヴィチの作品に対しても、同時代を生きた芸術家の一人として、共感を抱くところが多いのであろう。

この解説において、彼女の語り口は生々しく、まさに本音を語っていると言えるだろう。

長年にわたって、ソ連の優等生作曲家と考えられていたショスタコーヴィチが、実は反体制な創作傾向を持っていたことが明らかになったのは、偽書とされるヴォルコフのいわゆる「自伝」が1979年に西欧に出版されてから、ショスタコーヴィチの作品に隠されている真の意味を考えることが、一気に一般化した。

しかし、想像に基づく推論は別として、具体的には、その本質がなかなか分からないままであった。

とくに後期の作品では、自作からの引用が多く、引用の意味が興味を引くが、どこからの引用であるかはもちろん、その背景を解明することは、容易ではなかった。

なぜならば、ショスタコーヴィチの作品は広く知られているものも少なくないが、一方で、ソ連時代には、ほとんど知られていない作品も、決して少なくなかったからである。

そのようななかで、ネーフはこの弦楽四重奏曲全集の解説のなかで、かなり具体的に、ショスタコーヴィチの音楽の反体制的な本質に迫っている。

ネーフが社会主義体制の下で学問や芸術の活動を続けながら、体制が本来的に抱えてた矛盾に、日常的に直面していた体験があるからであろう。

ショスタコーヴィチはかつて「音楽は思索と観念を通して、つまり、普遍化の過程を通して、その力を獲得する。そして、弦楽四重奏曲においては、思索は深淵で、観念は純粋でなければならない」と述べた。

弦楽四重奏曲にたいするショスタコーヴィチの興味は、1924年から1974年まで、半世紀を越えて続いていたが、初心者の実験から円熟した老齢者の熟達へといった、発展という感じは少しもない。

すでに最初の出発点から、基本的な観念、つまり、はかなさと死に対する悲しみや、野蛮な力の行使と暗黒な時間の経過に対する抗議は、ふさわしい巧みさをもって表現され、語られている。

現実社会で政治の暴力さを増すにつれて、作曲家の内面的力と見通す目の明快さが増大した。

このような発達の印しの一つが、彼のアダージョ楽章に見出される。

それらはことごとく、内面性と真実性に満ち満ちている。

ここには苦悩の音楽があり、その苦悩と折り合う能力が見出される。

作曲家のもっとも美しい憧れの総和として、これらの楽章は20世紀の、そして、20世紀のための音楽となっている。

ショスタコーヴィチは弦楽四重奏曲において、ドストエフスキーが「人生の呪うべき問題」「死のこと」と定義したものを、さらにまた、「何百万の人々に、個々の人生の魂のなかで何かが行われているかを示し、そして、全人類の魂が何によって満たされているかを、個々の人々に明かす」という彼の欲求によって支えられている過程を、抽出して見せたのである。

ボロディン四重奏団は日本にいくどか来ていて、その緻密な演奏を賞賛するファンは少なくないであろう。

驚異的なアンサンブルの妙もさることながら、明白な主張に裏打ちされた、彼らの明快な演奏は、心憎いばかりである。

何も考えずに聴いても、ダイナミックな音響の対比と、歯切れの良いアーティキュレーションは、そのものとして十分面白い。

しかし、それにネーフの解説を重ね合わせて聞くと、彼らの演奏が主張している、ショスタコーヴィチの音楽の背後に隠された意味を聞き取ることができて、面白さは一段と深まるだろう。

まして、不自由なロシアの生活を垣間みたことのある人であれば、いや、そうでなくても、偽善的な現代社会の本質に飽き飽きしている人であれば、そこに表現されている人の心の深い悲しみを、共感を持って実感することができるであろう。

このボロディン弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲全集は、20世紀が生んだ鬼子、社会主義社会という矛盾に満ちた現象を、そこに生きた人間の心の機微を通して、憎々しいまでに明白に、多面的に描き上げている。

これは21世紀の現在を生きるわれわれに、20世紀を振り返る絶好のチャンスを与えてくれる、まさに哲学的な内容をもった全集であるといっても過言ではないだろう。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 08:11コメント(0)ショスタコーヴィチ | 芸術に寄す 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ