2022年05月20日
ネイガウス門下のギレリスやリヒテルと並ぶ大ピアニストながら政治的な理由で活動を制限(-"-)された旧ソ連の巨匠ヴェデルニコフの実像、全貌が漸く明らかに☺
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ソ連ものに強いイギリスのスクリベンダム・レーベルから、アナトリー・ヴェデルニコフ(1920年5月5日 - 1993年7月29日)の17枚組セットが登場。
諸事情あって表舞台にはあまり出なかったヴェデルニコフだが、その演奏の独特な魅力によって、マニアの間ではカルト的なピアニストとして有名な存在。
ヴェデルニコフの"再発見"はピアニストの国ロシアの奥の深さを改めて認識させるものだった。
同じネイガウス門下のギレリスやリヒテルと並ぶ大ピアニストながら、政治的な理由で活動を制限され、最近になってその実像が明らかにされるようになった旧ソ連の巨匠ヴェデルニコフ。
死後に復刻された一連の録音はどれも聴き応えのあるものばかりだ。
ヴェデルニコフはハルビンの生まれで、満洲や中国、日本で初期のキャリアを築き、東京に8か月間滞在してレオ・シロタのもとで腕をあげるなど、日本とも縁の深い人物。
その演奏は、揺るぎのない高度な技巧により、感情におもねることなく作品の姿を明確に示すのが特徴であった。
背景にはヴェデルニコフが非常に研究熱心で、たとえばバッハのパルティータを録音するために、カンタータ全曲を勉強するなど、その方法は時間と手間をかけた徹底的なものだったと言う。
実際、ヴェデルニコフのバッハ録音は峻厳な素晴らしい演奏であるし、自身のヴァージョンによる尖鋭な『ペトルーシュカ』(ペトルーシュカの死と亡霊も含む)や、独特の抒情が際立つ『月光ソナタ』、凄まじい迫力のプロコフィエフ『悪魔的暗示』など、作品に応じて突き詰められたスタイルは、バロックから現代にいたる幅広い作品を見事な説得力で聴かせる。
特に20世紀音楽については、政府受けが悪い作品でも熱心にとりあげ、それが原因で長きに渡って文化省の不興を買い、活動範囲が限定される要因にもなっていたが、ヴェデルニコフは方針を改めたりはしなかった。
そうした政府による制限もあって、自分の不運をぼやきがちだったヴェデルニコフであったが、同じく父親を処刑されていた妻のオリガとは、半世紀に渡って結婚生活を維持し、息子ユーリも立派な画家に育つなど、私生活にはとても恵まれていたようだ。
ヴェデルニコフが半世紀に渡って住み続けた別荘(ダーチャ)は、オリガの父、哲学者のゲッケルがモスクワ近郊のクリャーズマに建てた古い物件であった。
冬はとても寒かったものの、ヴェデルニコフはそこで音楽の研究に加えて、哲学や文学に親しみ、英語やフランス語も習得、アメリカやイギリスのラジオを聞き、健康維持も兼ねてヨガに興じてもいた。
そうした幅広い教養を深めつつ、旧ソ連体制のなかで深く「音楽」そのものに生き甲斐を求めたヴェデルニコフならではの表現が聴かれる。
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