2023年02月04日
ピアノの哲人ポリーニ🤔ベートーヴェンの心情の推移💌詩的な世界を見事に表現🗺️作品の裏側にある深い情感を見事に描く✍🏻ピアノ・ソナタ第28番🆕第29番
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極限まで磨き上げられた完全な技巧と知的な解釈で聴かせてきたポリーニ。
近年ではさらに深化を遂げた表現力によって、ベートーヴェンの作品に込められた心情の推移、詩的な世界を見事に表現し、作品の裏側にある深い情感を見事に描き切って間然とするところがない。
響きが切り立ってピアニスティックに情動を沸き立たせる形ではなく、音色のきらめきを抑え、キメを、ふと抜いて音との距離を作ることで想いの行方を聴き手に預け、内面世界にじっくり誘い込む、語り部ポリーニを印象づける練達の熟演。
ポリーニはレパートリーをある程度限定して、自分で納得できる作品だけを演奏している。
それは生涯変わっていないので、彼から新しいジャンルのレパートリーを聴きたいと思っても叶わない。
特にアンサンブルにはほとんど手を付けないし、これから開拓するとも思えない。
しかしこれらのようにベートーヴェンの哲学的な音楽の思索を再現した演奏は稀だろう。
『ハンマー・クラヴィーア』が、ポリーニの持ち味を最高度に発揮した、忘れることのできない熟演。
このソナタの雄渾な性格を失うことなく、しかもあらゆる音を細密画のごとく丹念に弾きわけるのは極めて難しい。
しかし、ポリーニは心配された技巧の衰えも感じさせず、苦もなくそれを実現してしまう。
彼のスケールの大きさが実感されると同時に、構成家としての一面がくっきり浮かびあがり、鮮烈な印象を与える演奏だ。
ショパンがピアノの詩人なら、ベートーヴェンはさしずめピアノの哲人と言うべきか。
ショパンはピアノという楽器の機能を最大限発揮できる作品を書いたが、ベートーヴェンは、おそらく楽器を超越したところで作曲している。
つまりピアノを考える楽器として扱っている。
そのためにテクニックの華麗さを示すような曲想が主体ではなく、音楽の中に思索が溢れている。
そうした課題にポリーニが挑戦し、ひとつの解決策を提示しているのがこのアルバムだろう。
それゆえ聴き流すことはできない、言ってみれば鑑賞者を拘束する演奏だ。
しかしじっくり聴きたい人には、これほどポリーニのベートーヴェンらしい表現方法も珍しいのではないだろうか。
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コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2023年02月04日 07:43
本新盤は未聴なので,是非和田さんに忌憚の無い意見を伺いたいと思います。以前私は1970年代のポリー二のべートーヴェンは秀逸でしたが,1980年以降如実に演奏が皮相的になり,全く私の期待から遠く離れた演奏と化して行った気がします。従って,1970年代に録音された28,29番は比較的上出来だと感じていましたが,45年ぶりの新盤はそれと比較して如何かと突っ込みたくなります (笑)。アマゾンのカスタマーレヴューを見ても賛否両論の様ですね。
2. Posted by 和田大貴 2023年02月04日 09:53
ポリーニは微妙に演奏スタイルに変化を見せており、以前に比べて表現の柔軟さが加わってきたようです。それはこのような作品を演奏したときにもっとも顕著で、絶妙なニュアンスがこまやかな陰影を形成しています。いつもの確固としたポリーニ流で、虚心に淡々とベートーヴェンの後期ソナタに向かっており、すべてが鋭利なアウトラインで、くっきりと表現しつくしています。例によって思い入れをきっぱりと締め出した演奏ですが、音楽に必要なだけの情緒性を濃い密度とともに湛えており、ベートーヴェンの激しさ、純粋さとともに、魂の優しさといったのものを確かに味わうことができます。例によって、ポリーニは奇をてらわず、ごく自然に演奏していますが、詩情のこもったピアノの響き、感情の大きな起伏、躍動するエネルギーにあふれている運動性、などが合体して魅力ある演奏を生み出しています。しかもその演奏は、ゆるぎない構成力の支配下に置かれているため、すこぶる安定しています。ポリーニの構成感の確かさと豊かなファンタジーを湛えた表現は、理想的な演奏と言えるでしょう。