ワーグナー
2008年06月15日
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ベルリン・フィルのテラークへの初録音で、その録音は特筆すべき見事さである。
全4夜、14時間かかるこの超大作を、わずか70分に縮めた一大交響詩としているのがこのディスクの特色で、ただ単に聴きどころを集めた多くのハイライト盤にはない価値がある。
物語の流れにそって音楽を選びだしたもので、通常の「指環」の管弦楽曲集とは異なり、各作品からかなり細かい部分も採りだして、よりストーリーを重視した独自の構成をとっている。
マゼールの指揮は、ストーリーにそった、極めて精密な設計の行き届いたもので、切れ味のよい棒で丹念に描いており、ことにフィナーレの盛り上げ方の素晴らしさは、抜群だ。
マゼールはベルリン・フィルのもつ機能をシャープな感覚で生かし、輝かしく磨かれた響きと極めて幅広いダイナミックス、そして雄大なスケールで演奏している。
「ワルキューレ」や「神々のたそがれ」など、ひとつひとつのシーンが眼前に浮かんでくるようだ。
特に「ジークフリートの死と葬送行進曲」から「ブリュンヒルデの自己犠牲」にかけては圧巻で、息を呑むような素晴らしさだ。
マゼールは、まさに自分自身を出し切って、ワーグナーと勝負している。
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2008年06月09日
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クナッパーツブッシュのワーグナーの凄みを最も手っ取り早く聴くことのできるディスクだ。
クナッパーツブッシュが生前最も得意としていたワーグナーだけに、そのスケールは桁違いに大きく、この人独自の風格がある。
堂々とした格調の高い演奏で、その悠然とした音の流れは、豊かなロマンにあふれている。強烈な個性をもった演奏だが、聴いた後に深い感動を覚える。
名歌手フラグスタートとニルソンの歌唱が聴けるのも素晴らしい。
ここに収められた6曲は、いずれも悠然たる構えで運んだ雄渾かつ重厚な表現で、音楽の彫りが大変深い。
まさにワーグナーの真髄を極めた巨匠の至芸である。
ことに「ジークフリートの葬送行進曲」とニルソンの歌った「愛の死」は圧倒的。「ヴォータンの別れ」も全く凄い。どの曲も彼の芸格の高さに心を打たれる。
一時代を画したすぐれたワーグナー演奏だ。
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2008年06月07日
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1951年バイロイト音楽祭のおけるライヴ。
戦後初の開催となったこの年の音楽祭では、カラヤンとクナッパーツブッシュという対照的な指揮者が「指環」のチクルスを分担した。
両方の演奏はEMIとデッカによって収録されたが、日の目を見たのはカラヤン指揮の「ワルキューレ」第3幕のみだった。
このクナッパーツブッシュの「神々のたそがれ」は1999年になってようやくリリースされたもの。当時としてはきわめて良好な音質で、巨人クナッパーツブッシュのワーグナー解釈を聴くことが出来るのが何より有り難い。
クナの「リング」全曲盤には1956年と57年のバイロイトライヴがあったものの、音が鈍すぎて到底彼の真価を伝えていなかった。
そこに忽然と現れたのがこのCD。しかも録音は英デッカ。「神々のたそがれ」だけというのが残念だが、まさにレコード界の一大快挙といえよう。
演奏はプロローグから雰囲気満点、歌の背景のオーケストラが常にものをいい、ワーグナーの音楽の美しさを満喫させる。
物語が進むにつれてオケの有機的な意味深さ、生々しさ、恐怖感が増してゆき、息もつかせぬ緊迫感など他に類例を見ない。
第1幕第3場、そして第2幕第3場、第4場、第5場あたりの凄みは圧倒的。
歌手も錚々たる顔ぶれがそろっており、ブリュンヒルデ、ハーゲン、アルベリヒ、ワルトラウテなど最高で、何より心の表出が素晴らしい。
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2008年05月31日
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1966年のバイロイト音楽祭における実況録音。
現代におけるワーグナー演奏のひとつの頂点を極めた記念碑的名演。40年以上経た現在もなお、この「トリスタン」の与える感動は少しも色褪せてない。
ベームの指揮は、強い集中力と熱気をはらんだ、きわめてドラマティックなもので、ワーグナーの音楽としてはやや硬質だが、そのスケールの大きさと彫りの深さは、ベームならではのものだ。
ベームの凝集力の強い指揮は、ワーグナーのエッセンスを見事に抽出したもので、ライヴならではの熱気が伝わってくる。
一点一画もゆるがせにしないベームの精妙な音づくりが、CDの鮮明な響きのなかに見事によみがえっている。
イゾルデとトリスタンの歌を聴くなら、戦後のバイロイトの象徴的存在だったニルソンとヴィントガッセンの共演がベストだろう。
フラグスタートよりも透明な声のニルソンと、今なお最高のトリスタンである真に英雄的なヴィントガッセンの情熱的な歌唱、またルートヴィヒのブランゲーネもすばらしい。
各幕がそれぞれCD1枚ずつそっくり収められているのも大きなメリットだ。
ライヴながら周到な準備の下に行われた録音もすぐれている。
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2008年05月24日
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カラヤンの同曲唯一の録音で、その最後のワーグナー/オペラ録音となったもの。
カラヤンならではの設計の巧みさの光る演奏だ。その音楽の奥行きの深さは、みごとというほかはない。
カラヤンのこの演奏を聴くと、何より驚くのは「オランダ人」の音楽がワーグナー円熟期の諸傑作にも劣らぬほどの、充実と緊張をもって豊かに鳴り響くことである。
ここでは全幕を通して演奏されるが、カラヤンはそこに明確なパースペクティブを生み出し、重厚かつ明快な演奏は驚嘆すべきものだ。
ベルリン・フィルの輝かしい音色も、素晴らしい。
歌手もおおむねそろっていて、ダムのオランダ人は宿命と業を背負った人物というより"悩めるインテリ"といった感じなのがユニーク。
むしろホフマンのエリックが素晴らしい。
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カラヤンの同曲唯一のスタジオ録音。
カラヤンとベルリン・フィルの関係が最も緊密な時代の録音だけに、華麗な官能美にあふれた管弦楽の有機性は、他に比肩するものがない。
ベルリン・フィルの驚異的な合奏能力と表現力をフルに発揮してつくり出された音の極限的精錬と美感もさることながら、それが単なる審美的な彫琢だけにとどまらず、「トリスタン」は聴き手の官能を呪縛し、音楽の奔流と陶酔の中に巻き込んでしまう。
カラヤンの黄金期を支えた名歌手たちによる配役も素晴らしい。
圧倒的な声の威力と鋭い緊張に加え、デリケートなやさしさと繊細な情感にも不足のないデルネシュ。気迫に満ちた歌唱で抜群の存在感を示すヴィッカーズ。
愛し合う2人以外にも当時としては申し分のない歌手が揃えられており、各人が最良の歌唱を展開している。
カラヤンはそうした声を管弦楽に組み込み、その精密無比な響きの美の中に溶解させる。
しかし、激しく熱い愛や情念とは結びつかない。徹底的に美が支配する「トリスタン」である。
一際優れた「トリスタン」といえよう。
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2008年04月09日
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ヴェルディへの愛情にもかかわらず、トスカニーニはワーグナーを「最大の作曲家」と明言している。
トスカニーニは「神々の黄昏」のイタリア初演を敢行し、1930,31年にはワーグナーの愛息ジークフリートに誘われてバイロイトに登場(非ドイツ語圏からは初)するなど、ワーグナーを熱烈に崇拝していた。
そして、1954年4月4日、記憶力に支障をきたして87歳の巨匠が引退を決意し、最後に行った公演の演目も、オール・ワーグナーであった。
特筆すべきは、この引退公演の録音がトスカニーニ唯一のステレオ録音であることだ。
録音スタッフの心意気に打たれるとともに、この録音によって、ヴァイオリンを両翼に置く旧配置の立体感が味わえるとともに、NBC響の思いのほか繊細で、色彩豊かで柔軟なサウンドを確認できるのである。
どの演奏にもクリスタルのような透明な輝きがあり、暖かい豊かな響きで録音されている。
最晩年のトスカニーニの比較的ゆっくりとしたテンポのもとに力強く壮大なワーグナー。
そこにはトスカニーニのワーグナーに対する尊敬の念がはっきりと示されている。
ことに「ジークフリートのラインへの旅」は素晴らしく、彫りの深い情感豊かな表現に強く惹かれる。
トスカニーニは、ついに「タンホイザー」のバッカナーレを最後まで指揮できず、「マイスタージンガー」前奏曲も華やかな終結部の最中に指揮台を降りるのであるが、それでもNBC響楽員の巨匠を愛し、慈しむ気持ちの伝わる感動的なドキュメントである。
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トスカニーニが最も得意としたのはオペラではヴェルディとワーグナー。
ワーグナーの全曲では、1937年のザルツブルグ音楽祭での「マイスタージンガー」が残されているとはいえ、プライヴェート盤で音も悪い。
まともな音で聴ける正式商品では、この2枚のワーグナー名演集がまず必聴といえよう。
トスカニーニのワーグナー演奏は、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュのような主観の強い解釈とは正反対で、あくまでも客観的な目で作品の核心に鋭く切り込んでいるのが特色だが、このアルバムはその好例。
その演奏は燃焼度が高く、訴えかけてくる力がきわめて強い。
活力と覇気にあふれた「ワルキューレの騎行」、「ローエングリン」第3幕への前奏曲、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、曲想をくっきりと浮き彫りにした「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死など、トスカニーニならではの見事な演奏だ。
また厳しさの中に崇高な気分を湛えた「パルジファル」第1幕への前奏曲、聖金曜日の音楽など、いずれも彼の真骨頂を示した立派な演奏である。
この「パルジファル」は、戦後のブーレーズの指揮を予感させるようなラテン的・カトリック的明澄さに特徴がある。
「ジークフリート牧歌」も清らかな愛情に満ちていて素晴らしい。
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2008年03月28日
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カラヤンの「ローエングリン」唯一の録音。
1975年の12月から81年の5月にかけて録音されたもので、自分の満足のいくまで長い年月を費やして録音に取り組んだ、カラヤンの真摯な姿勢には頭が下がる。
演奏の質は極めて高く、この上なく豊麗で優美な美の饗宴だ。
この巨匠一流の、劇的でしかも官能美にあふれた表現には、完全に魅了されてしまう。
神秘的な法悦にも、ロマンティックな官能の陶酔にも、力強い劇的な緊張や壮大な劇場的広がりのいずれにも、欠落や不満はない。
何と気高く美しい「ローエングリン」であろうか。
歌手では、暗めの豊潤な美音でオルトルートの邪悪な性格を鋭く歌い出しているヴェイソヴィチと、リッダーブッシュの威厳と優しさを兼ね備えた国王が素晴らしい。
コロのローエングリン、トモワ=シントウのエルザの主役級の独唱陣も実力を遺憾なく発揮している。
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2008年03月01日
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カラヤンは1967〜70年にザルツブルグ復活祭フェスティヴァルでの上演に並行して「指環」を録音した。
カラヤンの透徹した意志が全4部作を支配し、精妙緻密で洗練された響きの美しさから生まれる抒情性に覆われた、他に類を見ないユニークな「指環」だ。
しかもカラヤンの手腕の恐るべき点は、ゲルマン音楽の伝統的な心理のうねりと巨大なダイナミズムをも盛り込んでいることだ。その意志は歌手のひとりひとりにまで徹底し、絶妙の心理描写を全員が成し遂げているのである。
「ラインの黄金」は音楽自体のもつ一種の若々しい覇気と、壮大なドラマの発端としての可能性を秘めた率直さが、カラヤンの明快で壮麗な表現の中に見事にとらえられている。F=ディースカウのヴォータンは若々しい知能犯的な性格が面白い。
シリーズ第一弾の「ワルキューレ」は完成度のうえで多少の不満はあるものの、このうえなく精妙で美しい。従来のワーグナー演奏から余計な脂肪分を取り去ろうとしたカラヤンの意図は、ここでもはっきりと表れている。
「ジークフリート」は完成度のうえで最も素晴らしい出来映えといえる。精妙で透明なリリシズムの中に、ワーグナーの音楽の新しい姿と生命を発見しようとするカラヤンの意図は、ここでその頂点をきわめた。旧来のロマンティックな情緒過剰な表現とは無縁の室内楽的透明さをもつ抒情的な美のきわみがある。
「神々のたそがれ」はカラヤンの「指環」の最後を飾るもので、「ワルキューレ」から比べるとその意図も一段と徹底し、ベルリン・フィルの演奏にも、より雄弁な呼吸がうかがわれる。歌い手の出来にやや不揃いな面があり、「ジークフリート」ほどの完成度はないものの、その中ではみずみずしい情感にあふれ、しかも力強い緊張も兼ね備えたデルネシュのブリュンヒルデは素晴らしい。
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2008年02月04日
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クナッパーツブッシュの棒から生まれる、滔々たる大河の流れにも似た音楽の壮大さは、深遠崇高な音の叙事詩にも例えられよう。
いつの間にか、聴き手を底知れない恍惚と法悦の中に引き込む魔術的な手腕は、まさに彼独特の名人芸だ。
加えて歌手陣の充実ぶりと歌の素晴らしさ。
ホッターの神韻たる威厳と感動にあふれるヴォータンは、他に比肩するものがなく、ヴァルナイの力強いブリュンヒルデも傑出している。
「ワルキューレ」第1幕全曲は、クナッパーツブッシュがステレオで遺した唯一のスタジオ録音によるワーグナー演奏としてかけがえのないものだ。
表現の雄大なスケール、悠揚迫らぬその足取りには本当に感嘆させられる。
しかしワーグナー後期のこの作品のもつロマンティシズムと官能の陶酔にはいささか不足しているように感じられる。
が、ともあれ、クナのファンにとっては聴き逃せないものであることは確かだろう。
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2008年01月15日
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ショルティ&ウィーン・フィルは58〜65年にかけて「指環」全曲を完成していたが、独立曲としてはこれが初録音だった。
驚くべき充実と稀有の迫力とをみせる演奏。
オケの響きが豊かで緊張にみち、ワーグナーの音楽の根幹をなすヴァイタリティと独特のロマンティシズムが、そのまま聴く者に迫ってくる。
それは、もちろんショルティ自身の円熟によってもたらされたものだが、同時に彼がいかに深く作品への理解を示し、ワーグナー演奏につきることを知らぬ意欲を燃やしているかの一端を明らかにしたものといえよい。
「トリスタン」が非常に名演である。
冒頭の哀切なピアニッシモからして心惹かれるが、木管の透明さと弦の粘着力を両方相持ち、この曲の世界を的確に描き上げていく。
スケールの大きな「タンホイザー」と押し出しの立派な「ニュルンベルク」もショルティの長所がよくあらわれた見事な演奏だ。
他の曲もきっちりとした整然たる表現になっている。
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「タンホイザー」はパリ版による初の全曲録音である。
序曲の途中から豊麗なバッカナールに流れ込む形をとっている。
このことにより、初めて、ヴェーヌスは類型的な異教的官能の女神としてではなく、純愛の象徴エリーザベトのアンチテーゼとしての劇的実体が得られた。
演奏は「パリ版」の特色である色彩美を存分に生かした、すこぶる華麗なもので、ショルティの精緻をきわめた指揮も素晴らしいが、ウィーン・フィルの艶やかな音色もたまらない魅力となっている。
タンホイザーを歌うコロが若々しく情熱的で初々しいのをはじめ、デルネシュのエリーザベトとルートヴィヒのヴェーヌスの主役2人の女声がともに魅力的で充実しており、ショルティの指揮もこれ以前の「指環」全曲よりもふくらみを持っている。
「ワルキューレ」第3幕はフラグスタート(1895-1962)の最後期の録音のひとつである。
すでに現役を引退していたフラグスタートを説得して、ブリュンヒルデに起用したもので、その気品と威厳に満ちた歌唱が残されたことに感謝したい。
ショルティの直情的で切れ味の鋭い指揮も、深遠さはないもののオペラティックな魅力に満ちている。
ウィーンの名歌手エーデルマンのヴォータンが聴けるのも貴重だし、シェッヒのジークリンデも高水準の歌唱である。
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選曲がすぐれていて、これがなかなか魅力的。
テンシュテットのワーグナーは全体に遅めのテンポでじっくりと歌いあげたもので、そのねっとりとした情感の描き方や、腰を割って音楽をつくりあげてゆくところなど、古いドイツの演奏スタイルを守っている。
「指環」のハイライトも全体に遅めのテンポで悠然と進められている。
いかにも重厚でスケール雄大な表現の「ワルキューレの騎行」、ゆったりとしたテンポで劇的に展開される「ジークフリートの死と葬送行進曲」、独特の厚みと輝きをもったブラスの合奏で開始される「ヴォータンの告別と魔の炎の音楽」など、いずれも感動的な演奏。
特に彼の長所と特性が発揮されているのは「タンホイザー」序曲と「ローエングリン」第1幕前奏曲で、見事な計算と緻密な演出の光る、彫りの深い演奏を聴かせる。
全曲を通じて、ベルリン・フィルのもつ機能美が十全に発揮されている。
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クレンペラーのワーグナー演奏は、あくまでもドイツ音楽の伝統を踏まえ、悠然たる構えで骨太にがっしりと構築されているのが特色だ。
ここに収められているのは、その長所が万全に発揮された卓抜な演奏ばかりで、実に素晴らしい。
深々と感動的にまとめた「トリスタンとイゾルデ」〜「愛の死」、曲想を的確につかんだ「タンホイザー」序曲はもちろんのこと、どの曲もクレンペラーの力量のほどがはっきりと示された名演である。
その他の曲もそれぞれの曲の持ち味をあますところなく表出していて秀抜だ。
クレンペラーによるワーグナー選集の第2集は「マイスタージンガー」と「指環」4部作、それに最後の作品「パルジファル」からの全8曲。
特に「ヴァルハラ城への神々の入場」が圧倒的な迫力だ。
「ジークフリート」〜「森のささやき」では弦と管のバランス、神秘的な表情など、細部にわたって細かく神経をはたらかせている。
「ジークフリートの葬送行進曲」も大変見事だ。
クレンペラーの芸格の高さがはっきりと示された名盤である。
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2008年01月14日
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演奏の傾向そのものは以前にもあったカラヤンの同種の録音と変わらないが、「トリスタンとイゾルデ」は彼の年輪の厚みを感じさせる。
中でも「愛の死」はその官能的な音のうねりが素晴らしい。
また同様に「タンホイザー」の「ヴェヌスベルクの音楽」も艶美な妖しい気分にみちあふれている。
76歳でなお、これほど艶っぽい音楽の世界をつくり出すことができるとは!
ウィーン・フィルとの初のライヴ録音は、カラヤン&ノーマンの唯一の共演である。
「タンホイザー」序曲は、ややテンポを遅めにとった悠然たる構えの表現で、そのカチッとした構成と滔々と流れる音の美しさが素晴らしい。
「ジークフリート牧歌」は多少粘りの強い、腰の重い表現だが、磨き抜かれた美しさと彫りの深さはカラヤンならではのものだ。
「トリスタンとイゾルデ」では、ノーマンの絶唱もさることながら、第1幕前奏曲のカラヤンの語り口のうまい演出と官能的な響きに魅了される。
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どの曲も文句なしに素晴らしい。
第1集では「タンホイザー」と「トリスタンとイゾルデ」が傑出した出来栄えで、「タンホイザー」は押し出しの立派な序曲もさることながら、豊麗を極めた「ヴェヌスベルクの音楽」が実に見事だし、「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」での熱っぽく官能美あふれた表現には、強く心を打たれる。
2曲ともカラヤンの巧緻な演出の光る名演である。
第2集は5曲ともそれぞれすこぶる充実した演奏である。
気宇雄大で骨太の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、雄渾で迫力に満ちた「さまよえるオランダ人」序曲、生き生きとして生命感にあふれた「ローエングリン」第3幕への前奏曲など、ワーグナーの音楽特性をしっかりつかんだ卓抜な演奏はカラヤンならではのものだ。
極上のワーグナー演奏として高く評価したい。
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2008年01月07日
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素晴らしい名演。
バーンスタインとワーグナーがお互いに強い親密感で結ばれてしかるべき特質を共有しあっていることを痛感させられる。
冒頭の前奏曲からテンポの遅さに驚かされる。
しかし聴き進むうちに、その異常な遅さと粘っこさはバーンスタインの強い意図なのだとわかる。
バーンスタインの、音楽の中に身も心もたっぷりひたり込む豊かな感情移入は比類なく、それを大きく豊かな表情と起伏をもって表現する。
ここではワーグナーのエロスが、文字通り大きく豊かな起伏と表情で、精妙な美感と息づかいの中に表現されている。
その雄弁で巨大なドラマの展開から生まれる感動は驚異的だ。
オーケストラも力演。
歌手もほぼ全面的に満足できる。
特に主役のホフマンとベーレンスは第一級のワーグナー歌手としてとび抜けた存在。
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2007年11月14日
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ニーチェのいう「魔力」こそフルトヴェングラーのワーグナーの特徴である。
フルトヴェングラーという巨大な才能は最も深い意味でワグネリアンである。
彼の持っているあらゆる特質と価値は、ワーグナーの音楽のワーグナーの音楽の本質と完全にコレスポンドしている。
彼は「トリスタン」の音楽を徹底的に雄弁に再現することによって、同時に最良の自己表現をすることができた。
第1幕で感じられる官能と陶酔が「愛の死」に至るころには、崇高な法悦と浄化にまで昇華していく。
彼のワーグナー演奏の秘法が、ここにはあますところなく示されているのである。
いきなり全曲盤はどうもという方には、試しに彼の「ワーグナー・コンサート」に入っている「トリスタンとイゾルデ第3幕への前奏曲」を聴いてみてほしい。その「魔力」に心を奪われるはずだ。
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2007年11月13日
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フルトヴェングラーは、最もゲルマン的な音楽造りという点ではひとつの規範であり、理想と呼べる領域にまで達しているといっても過言ではあるまい。
残された全曲盤の録音は、「ニーベルングの指環(リング)」が2種、戦時中の演奏でありながら気宇雄大な音楽性を示す「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、そしてスタジオでの正規のレコードのための録音である「トリスタンとイゾルデ」と「ワルキューレ」である。
中でも「トリスタン」は、この作品の究極の解釈とでも呼ぶべき超名演である。
フルトヴェングラーの和声感・音程感(ことに主音へ導く音全てをさす「導音」の美しさ)と、それを生かしきった音楽の流れの良さ、そして大きな見通しは、精緻でありながら滔々たる大河のごときスケールの大きさを示している。
機能和声の音楽の爛熟の臨界点にある「トリスタン」という傑作を、機能和声とアゴーギグの芸術であるゲルマン音楽の申し子であるフルトヴェングラーが指揮すればこその圧倒的傑作である。
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「トリスタンとイゾルデ」の素晴らしさについては、ニーチェが言及していて、彼はこの作品を最も伝統的で、最もロマンティックで、最もゲルマン的で、最も音楽的(この表現はそっくりフルトヴェングラーの演奏に当てはまる)であるという意味で疑いもなくワーグナーの最高傑作であると述べている。
ちなみにキリスト教を否定した(「神は死んだ」)ニーチェは、舞台神聖祝典劇「パルジファル」を「ワーグナーは変節した」と批判した。
「わたしは今もなおあの『トリスタン』と同じように危険な魅惑をもち、同じように戦慄をさそって、しかも甘美な無限性をもつ作品を、見い出すことはできない―あらゆる芸術の中にそれを探したが見い出すことはできない。レオナルド・ダ・ヴィンチのあらゆる不思議な魅力も『トリスタン』の最初の一音で魔力を失ってしまう。この作品こそ、まったくワーグナー芸術の極致である。(中略)この地獄の快楽を味わうことができるほど病的になった経験のない者にとっては、世界は貧弱なものである。」(ニーチェ著『この人を見よ』手塚富雄訳、岩波文庫、「なぜ私はこんなに利発なのか」第六段より引用)
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2007年11月12日
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ナチズムの時代、ヒトラーの芸術的アイドルであったワーグナーは、確かにゲルマン芸術の象徴と呼ぶべき特質を持っている。
17世紀の音楽界を席巻したイタリアの覇権をドイツ圏の作曲家は18世紀に入ってから徐々に崩し始めた。
オペラの世界でゲルマンの独立性を完全に樹立した作曲家が19世紀のワーグナーであった、といっても過言ではあるまい。
ワーグナーの和声法と管弦楽法から生み出される色彩感、そしてその色彩感によって左右される微妙なアゴーギグ(速度を速くしたり遅くしたり、微妙に揺らしたりして音の表情に変化を与え、音楽に生き生きとした動きをもたらす技術のこと。フルトヴェングラーが多用した。)の変化という特性は、そのままゲルマン芸術の語法の代名詞と呼べるものだった。
勿論、オペラのドラマ性を司るテクストの在り方自体も、ワーグナーの場合は非常にゲルマン的であったわけだが、それ以上に音楽的特性におけるゲルマン性は、ワーグナー演奏の場合、重要なポイントとなる。
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2007年11月04日
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1938年の有名なニュルンベルクにおけるナチスの党大会前夜、ワーグナーの「ローエングリン」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」がヒトラー臨席の下で上演されているが、この指揮棒をとったのがどうやらフルトヴェングラーであったようだ。
写真で有名な総統誕生日の記念コンサート、工場慰問の演奏活動など、戦時中のフルトヴェングラーのナチスへの協力の足跡は枚挙にいとまがない。
最も決定的な例として、1943年の「戦時祝祭」と銘打たれたバイロイトにおける「ニュルンベルクのマイスタージンガー」上演があげられる(CDにもなった)。この「マイスタージンガー」上演は、演出ハインツ・ティーチェン(シュターツカペレ・ベルリン総監督)、美術ヴィーンラント・ワーグナー、指揮フルトヴェングラーという陣容で行われた。
そして驚くべきことに、コーラスのメンバーに、ヒトラー・ユーゲントとSSのメンバーが加わっているのである。残された上映写真を見ると、まるで38年の党大会を彷彿とさせるような露骨なナチス・プロパガンタ舞台である。
こうした上映からもフルトヴェングラーのナチスに対する連帯責任が否定しえないものであることは、マンを待つまでもなく明白といわねばなるまい。
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2007年10月17日
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ワーグナーには毒がある。酒や煙草と同じで、一度味を覚えたらやめられない。しまいには中毒になってしまうのだ。
でも酒や煙草と違って、体には毒にならないから、どっぷりこの世界に浸ってみようという気持ちを変えないで今日に至っている。現に私がそうだし(今カラヤンの「タンホイザー」を聴いている)、ある友人はここ一か月程ワーグナーしか聴いてないというし、また別の友人はクナッパーツブッシュの「パルジファル」を全部集めようとしている。
私はどうしたことか、上映に四日もかかる「リング」も全曲盤をフルトヴェングラーで二種、あとクナ、クラウス、バレンボイム、全曲盤の抜粋でベーム、カラヤン、ショルティ、レヴァインと持っている。「リング」の全曲なんて生涯に何度聴くであろうか?それなのにまだ集めようという気を断つことができないのである。
ワーグナーにはいつの間にか聴き手を底知れない恍惚と法悦の中に引き込む魔術的な手腕があるのだ。初心者はまずクナッパーツブッシュの「序曲、前奏曲集」を耳にタコができるまで聴き込んでみてほしい。
その段階を終えたら、いよいよ全曲盤にチャレンジ。まずは「リング」をお薦めする。といってもあんなに長いものをいきなり最初から聴く必要はない。「ワルキューレ」それも第1幕だけを何度も耳にするのが賢明であろう。
ここでも指揮者によってスケールと深みが断然違ってくることを強調せねばならない。CDはクナッパーツブッシュ/ウィーン・フィルのデッカ盤。表現の雄大なスケール、悠揚迫らぬその足取りには本当に感嘆させられる。キャストもショルティ盤より上だ。人類の宝といいたい。
究極的には「パルジファル」をやはりクナッパーツブッシュ/バイロイト祝祭(62年、フィリップス)。極めて鮮明な音のなかに「パルジファル」の絶妙な世界が繰り広げられ、いつの間にか形容を絶した陶酔と感動と法悦に導かれていく。この名盤はクナッパーツブッシュの深い沈潜と共感に満ちた芸術の至高の結晶だったばかりでなく、この作品のもつ、神秘と官能、祈りと浄化のドラマの、ひとつの理想的な表現にまで達したものだったといっていいだろう。
ワーグナー演奏についてはクナに限る。
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2007年10月13日
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前記したように、フルトヴェングラーが生きた時代は、ベートーヴェンに代表されるような、頂点に向かって進む音の有機的生命が音楽構造の根本にあり、そうした時代が終焉を迎えつつあった。
フルトヴェングラーはその生命体を時代の証言として音化したのであるが、それでいて彼の表現は時代を超えていた。なぜなら人間の魂の起伏を音にして託したものであったからである。
しかも彼の創り出す音楽の背後には無限の深さを感じさせた。
歴代の名演奏家といえども、彼らの演奏スタイルは時代とともに古くなる運命にある。
フルトヴェングラーは何といっても、身をもってスコアの中に入り込み、作曲者の心と一体となり、同じ水準で「追体験」し、新しい音楽に再創造した。そういった方法で勝負したのは彼を除いて誰一人いなかったのである。
興味を持たれた方にはまず彼のワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をお薦めしたい。彼が生前スタジオ録音した正規録音のなかではこの「トリスタン〜」が最も素晴らしい。官能と陶酔がいつの間にか崇高な法悦と浄化にまで昇華していく。彼のワーグナー演奏の秘法が、ここにあますところなく示されているのである。それにこのCDでは、録音状態の悪いものが多い彼の録音にしては珍しく、細部のニュアンスや全体のディナーミクの躍動を格段に鮮明に聴くことが出来る。
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