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クレンペラー

2008年05月21日


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クレンペラーの代表的なディスクの一つである。1枚に全曲を収めているのも大きな魅力だ。

悠揚迫らぬ骨格の太いブラームスである。

すこぶる腰のすわった重厚な表現で、伝統的なドイツの演奏スタイルをそのまま伝える名演である。

クレンペラーの包容力の豊かさが各章に感じられ、その重量感はまさしく巨造建築を仰ぎみているようだし、ブラームスへの畏敬の念に満ちている。

まさに1960年代を代表するブラームスの演奏様式というべきだろう。

現在のブラームス演奏からは隔たっているかもしれないが、頑固なまでに自己の信条に忠実だったクレンペラーの融通の利かない反時代性が、この1961年録音から、いま鮮明によみがえる。

正統、かつ重厚。その内面の深さは量り知れない。

独唱者たちもクレンペラーの意図を体現した隙のない好演で、シュヴァルツコップの歌唱も肺腑を突き、フィッシャー=ディースカウも敬虔いっぱいのブラームスを聴かせてくれる。

声の美しさと内面的な深さで光る。

合唱団の歌い込みも充分である。

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2008年05月20日


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「ミサ・ソレムニス」はクレンペラーの宗教合唱曲の中では最高の出来である。

おそらくベートーヴェンの内面的思考過程に最も近く寄り添っているのがクレンペラーの演奏と思われる。

人生の辛酸を舐めつくしたクレンペラーならではの世界が、ゆるぎない人生観照の上に立って見事である。

クレンペラーの演奏には、ベートーヴェンの無限へのゆるぎない生命観と、絶対という神へのおそれと祈りが、人間として持てるだけのすべての中で、とうとうと音をたてて流れている。

クレンペラーのニュー・フィルハーモニア時代(1964年以降)の録音は特に出来不出来が激しく、散漫なものも含まれているように思うが、この「ミサ・ソレムニス」ではすべてが充実し、ピリリとした緊張と、ほとばしるような生命力によって、全曲が運ばれている。

老巨匠は、この時よほどコンディションが良かったのだろう。クレンペラーの炎のようなベートーヴェンへの帰依は、雄大な精神への勝利といえよう。

ソリストもすべて第一級で、ことにヘフゲンが素晴らしい。コーラスも細部に至るまでクレンペラーの意志が行き届いている。

「合唱幻想曲」におけるバレンボイムのピアノもまずまずの出来だ。

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2008年05月01日


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大学生のころ、私はこのCDを何度も聴き、バッハのすばらしさに、身も心も酔いしれる思いを味わった。

特に、ある女がイエスに香油を注ぎかけたというレチタティーヴォからアルトの悔恨のアリアに至るあたりや、「備えせよ」のバス・アリアから最後の大らかな合唱に入るあたりは、正直のところ、涙なくしては聴くことができなかった。

クレンペラーはこの受難の物語の中から、人間の普遍的な愛情の襞にまで入り込んで、すべての人物が人間の愚かしい行動を是認しなければならない苦しさを描き出していく。

これはクレンペラーならではの世界だろう。

全体に遅めのテンポ設定が主流をなしているが、彼にとってこのテンポは不可欠なものに違いない。

雄渾な音楽づくりの中にも、クレンペラーの老巧な棒さばきと、張りつめた緊張感とが身近に伝わってきて、テンポ設定ひとつにしても、やや遅めにとり、コラールも重厚に、コラールフェルマータも、様式からはみ出さない限度においてテヌートを加えるなど、細心の注意が行きわたっている。

1961年の録音だけにシュヴァルツコップもF=ディースカウの声もまだ瑞々しい。

ルートヴィヒのアルトも沈痛だ。

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2008年03月17日


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クレンペラー80歳直前の1964年の録音。クレンペラーのモーツァルト/オペラ第1作で、続いて「ドン・ジョヴァンニ」、「フィガロ」、「コシ」が録音されている。なお資料によればポップは当盤がデビュー盤であった。またヤノヴィッツもデビュー当時の最初期の録音となる。3人の侍女にシュヴァルツコップ、ルートヴィヒ、ヘフゲンという豪華メンバーでも話題を集めた。

数多いクレンペラーのモーツァルト中でも、これは際立って優れた演奏である。台詞をすべて省略した演奏だが、それはクレンペラーが絶対音楽としての純潔さを志向していることを物語っている。

モーツァルトが晩年に達した精神の深みが、ここで、見事に突っ込んで表現されている。重点は陽気で自堕落なパパゲーノの世界からタミーノの克己、ザラストロの博愛の方に相当傾いているが、このくらい深々と演奏されると、それが、また良いのである。

一般に、クレンペラーの録音では、木管が、はっきりと聴きとれる。モーツァルトが木管の扱いに天才的な手腕をみせた「魔笛」のような作品ではそれがことに効果的で、夜の女王の第1アリアにおけるバセットホルンの響きなど、ポップの初々しい名唱と相まって、心に迫る。

ポップはこの録音に歯の麻酔をかけたまま臨んだのだそうだが、このアリアにおける母の悲しみの情感豊かな表現は、今もって、凌駕されていない。

クレンペラーは序曲からして、雄大な風格とスケールをもって威風堂々と表現する。豊かな響き、重厚なディナーミク、信念に満ちた画然たる表情。

クレンペラーの意図は、ドラマの成りゆきやジングシュピールの枠をはるかに超えて、ひたすらにモーツァルトの音楽そのものだけをいかに立派に響かせるかにある。

この剛直できびしい表現が「魔笛」のすべてではないが、そこに豊かで生き生きとした血と肉を与えたのは、充実したキャストによる見事な歌で、ひとつの完成した世界を生み出している。

クレンペラーの遺したモーツァルト・オペラ全曲盤の中では最も優れた、傾聴に値する名演である。

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2008年03月09日


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クレンペラーは妥協を知らなかった。自分の信念に忠実に音楽することがつねに彼にとってすべてで、周囲がそれをどう受けとるかなどということは、不思議なくらい、念頭になかった。

そんな人だったから、彼の生涯は、苦闘の連続だったらしい。彼が再三にわたる障害を克服したことはよく知られているが、怪我や病気は、彼が立ち向かわなくてはならなかったものの、ほんの一部にしかすぎなかったことだろう。克己の戦いを通じてのみ、クレンペラーは、自己を実現することができた。

こういう人の音楽であるから、誰にも気軽に親しめるというわけにはいかないのは、当然かもしれない。実際、クレンペラーの演奏はつねにかなり無愛想だし、感覚的な魅力も、しばしば欠けている。多彩な音色美だとか、水もしたたるような歌わせ方だとか、躍動的なリズムだとか……。

だが、私は、それらに十分引き換えうるだけの実質を、クレンペラーの演奏はもっていると思うのである。わかりやすい啓蒙書にくらべ、難解な哲学書に、じつは深い内容が盛りこまれているように。

啓蒙書はもちろん必要だが、世の中がみな啓蒙書になってしまったら、思索の精神は衰えるだろう。だが、本ばかりでなく、音楽においてもその徴候がみられるのが、現代ではないだろうか。時代に超然として、本質のみを掘り下げ続ける人というのは、もう、なかなか出なくなった。

そう考えると、クレンペラーという指揮者がいかに貴重な存在であったかが、改めて痛感されてくる。精神の健康を保つためには、クレンペラーの遺産に、これからも耳を傾けてゆきたいものである。

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2008年03月08日


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クレンペラーの演奏には、大きな長所と、反面、大きな欠点があることがわかる。

また、彼の残した録音にはかなりの出来不出来があることも、わかってくる。

しかし、どの録音からも共通して感じられるのは、精神的な重量感とでもいうべきもの、ひたむきな求道心とも呼ぶべきものである。

例えばベートーヴェンの交響曲第7番の冒頭の和音を聴いただけで、これから進められるのが生半可な娯楽や慰安の音楽ではなく、人間の生きる努力と結びついた厳粛な営みであることが、ただちに感じとられる。

そこにはいつも、倫理的な緊張感が漂っている。

一言でいえば、クレンペラーの音楽は、「意志の音楽」であると思う。

たくましい、意志の音楽。

それも、並の人間をはるかに超えた、巨人的で根源的な意志の音楽である。

その意味でクレンペラーの個性は、作曲家でいえばベートーヴェンに近いところがある。

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2008年01月15日


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クレンペラーのワーグナー演奏は、あくまでもドイツ音楽の伝統を踏まえ、悠然たる構えで骨太にがっしりと構築されているのが特色だ。

ここに収められているのは、その長所が万全に発揮された卓抜な演奏ばかりで、実に素晴らしい。

深々と感動的にまとめた「トリスタンとイゾルデ」〜「愛の死」、曲想を的確につかんだ「タンホイザー」序曲はもちろんのこと、どの曲もクレンペラーの力量のほどがはっきりと示された名演である。

その他の曲もそれぞれの曲の持ち味をあますところなく表出していて秀抜だ。

クレンペラーによるワーグナー選集の第2集は「マイスタージンガー」と「指環」4部作、それに最後の作品「パルジファル」からの全8曲。

特に「ヴァルハラ城への神々の入場」が圧倒的な迫力だ。

「ジークフリート」〜「森のささやき」では弦と管のバランス、神秘的な表情など、細部にわたって細かく神経をはたらかせている。

「ジークフリートの葬送行進曲」も大変見事だ。

クレンペラーの芸格の高さがはっきりと示された名盤である。

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2007年12月24日


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クレンペラーとメンデルスゾーン、何とも不思議な組み合わせである。

クレンペラーのような微笑みの皆無な超の字がつくまじめな音楽家には、メンデルスゾーンのような作曲家にはいちばん向かないはずなのだ。

事実、彼の指揮した「イタリア」はまったく面白くない。ところが、同じメンデルスゾーンでも「スコットランド」と「真夏の夜の夢」だけは十八番で、他のいかなる指揮者も及ばないものがある。

まず「スコットランド」が名演である。

クレンペラーは特別にこの曲を愛しており、ゆっくりとしたテンポでメロディーを情緒的にうたい、細部の楽器の音色をいかにも美しく表出する。

クレンペラー独特のゆとりのある遅いテンポで悠揚と進行する音楽は、ほの暗い曲趣を明確に表しながら、その中にクレンペラーという巨人的指揮者の存在を印象づける。

しかも、メンデルスゾーンの創作の根底にある古典主義的格調が期せずして表わされている。

聴衆におもねるところの毛頭ない孤高の芸術といっていいだろう。

「イタリア」も個性的。ただ、かなり重い演奏である。

「真夏の夜の夢」は、クレンペラーの演奏の中でも最もすぐれたものだろう。

クレンペラーはここでも悠然たるテンポで、曲のすみずみにまで神経を通わせ、重厚かつ緻密に仕上げており、なによりも音楽的な充実感が最高だ。

さわやかさにはいくぶん欠けるが、音色がまことにみずみずしい。

彼はあくまでも正攻法で運びながら、全編を詩情豊かにまとめている。

幻想的な世界を描きあげた「序曲」や、ロマンティックな気分にあふれた「夜想曲」など、老練なこの指揮者ならではの味だ。

ことに見事なのが「妖精の歌」と「間奏曲」で、ふつう速いテンポであっさり通りすぎてしまう両曲を、ゆっくり愛情こめて演奏し、この曲のロマンティックなメロディーを心ゆくまで堪能させてくれるのである。

ハーパーとベイカーもぴったりと息の合った歌唱ぶりで、合唱とともにこの名演に花をそえている。

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2007年12月12日


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「大地の歌」は1967年に発売されて以来、この交響曲の最高の演奏のひとつとして評価されていたものである。

歌手にルートヴィヒとヴンダーリヒという美声を得て、歌唱の面でも充実しており、クレンペラーの表現も彼のマーラー演奏では抜群のもの。

ここでは詩情と諦念に満ちた曲の真髄が明らかにされ、オーケストラと人の声とが見事な一体感をつくっている。

しかも「告別」に至る全6楽章の推移が実に自然である。

クレンペラーはこのマーラーの第9番に自己の晩年の心境を託しているように思える。

表面的な効果を狙うことなく、意志的にコントロールされた音楽が淡々と歌う。

深遠な、きわめて人間的なマーラーであり、終曲は意外な明るさを感じさせるのがかえって感動を誘う。

ウィーン・フィルとのライヴは逆に熱烈だ。

まるでウィーン・フィルの弦が、ユダヤ人が数多く在籍していた時代の録音を思い起こさせるかのように甘美な音になっており、むせぶように歌っている。

肺腑を抉るような管も圧倒的だ。

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まず「復活」だが、演奏は強靭で緊張感が高く、堂々とした風格と豊かな抒情感がある。

全体にクレンペラーらしい淡白な音楽ともいえるが、作品の若々しさは率直に示されており、終楽章の激しい気力を劇的に表した演奏が、全体のクライマックスを築いている。

独唱・合唱のすぐれていることも大きな特色だ。

これはマーラーの信頼を得ていた大指揮者の歴史的録音といえる。

しかし、クレンペラーの「復活」の真髄を知るには、彼の最後のライヴを聴かねばなるまい(残念ながら入手難)。

第4番は清澄そのものの表現である。常にゆとりのあるテンポをとり、急がず、悠々とマーラーの美しい旋律を歌わせている。

細部の彫琢はいうまでもない。

造形も端然としており、その中に進行する音楽の味わい深さはたとえようもない。

第3楽章も単なるムード音楽に終わらず、強靭な精神の存在を背後に感じさせる。

終曲でシュヴァルツコップが全盛期の美声をくりひろげるのも聴きものだ。

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